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■ 第179回 健康診断を活かす ■
~白血病と闘う その11~

医師 小澁 陽司
     

             
 今回から始まるテーマは、「悪性リンパ
腫」。
 もちろん、現在当コラムは白血病に関係
するお話を続けている最中ですので、この
疾患も前回までの骨髄異形成症候群と同様、
白血病の類縁疾患のひとつになります。

 実は筆者が今回のテーマを決めたのとほ
ぼ時を同じくして、偶然にも悪性リンパ腫
を発症されたことを公表された方がいらっ
しゃいました。
 それはフリーになられたばかりのアナウ
ンサー・笠井信輔さんで、その詳細はご自
身が開設されたブログやテレビを通じて報
じられていますから、すでに皆様もご存じ
でいらっしゃると思います。

 そして、大変個人的な話で恐縮なのです
が、まずは笠井アナに関する筆者のちょっ
とした思い出を話させてください。
 日本がバブル景気に沸いていた真っ最中
の1990年前後、消化器外科医でがんの
専門医であった筆者の父は、手術や診療の
合間を縫ってフジテレビの午後3時からの
情報番組にコメンテーターとしてスタジオ
へ招かれ、たびたび出演しておりました。
その際、番組の司会を数人で務めていらっ
しゃったうちのお一人が、まだ入社数年目
の笠井アナだったのです。
 父はよく、「この番組は司会の人たちが
みんな穏やかで、要領よく質疑応答をして
くれるからとても話しやすい」と語ってい
ました。実際、当時テレビの画面を通して
筆者が見た父は、他のテレビ番組に出演し
ている時よりもリラックスしてコメントし
ているように感じられ、そこには笠井アナ
はじめ番組スタッフ皆様の隠れた気遣いが
あったように思われてなりません。

 そんな思い出を持つ筆者にすれば、今回
の執筆を開始しようとした矢先でもあり、
あまりのタイミングに驚きを禁じ得ません
でしたが、様々な報道を拝見するにつれ笠
井アナがご立派だと感じたのは、闘病生活
を始められるのと同時にご自身の病状を報
告していく理由として、今まで著名な方々
のプライバシーを長年にわたり取材し報道
し続けてきた自分が、いかに重病に罹患し
たからといって自分の場合だけそっとして
おいて欲しいというわけにはいかない、と
述べられたことでした。
 これは、ジャーナリズムの基本として持
ち続けるべき精神を体現しているのです。

 私たちは一般的に、自分の病気について
あまり多くを語りたがりません。病気など
は、むしろ隠しておきたいと思うのが本音
でしょう。
 しかし、それを承知の上で世間に赤裸々
な報告を続けるのはとても勇気が要ること
で、笠井アナの場合、ともすれば薄れがち
になるジャーナリズム精神に則って真摯に
行動していることは称賛に値します。

 また、病気の公表後、笠井アナのインス
タグラムのフォロワー数が飛躍的に増え、
闘病を応援する声で満ち溢れているとも聞
きました。
 待ったなしの病気と対峙しなければなら
なくなった人生の理不尽に対する苦悩、葛
藤が混在しながらも、誠実に自身の病気を
逐一伝え続ける姿勢のその先に、悪性リン
パ腫を克服しようとする強い意志を感じる
ことが、多くの人々の共感を呼ぶのでしょ
う。

 公表された情報によると、笠井アナが罹
患されたのは「びまん性大細胞型B細胞リ
ンパ腫」と呼ばれるもので、ご本人の説明
通り悪性度は中等度であり、決して一筋縄
ではいかない種類の悪性リンパ腫ではある
のは確かです。
 しかし、当コラムで再三申し上げてきた
ように、幸いにも現在の医学はあらゆる面
で進化を遂げていて、かつては治癒が困難
だとされていた疾患に対する治療法が着実
に増えてまいりました。悪性リンパ腫も例
外ではなく、今や抗がん剤が効きやすい血
液がんの一種であることが知られています。

 笠井アナが、今後もしばらくの間続くは
ずの闘病生活を乗り越え、一日でも早くお
仕事の場に戻って来られるよう心よりお祈
りしながら、次号から本格的に悪性リンパ
腫のご説明を始めることにいたしましょう。



























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