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■ 第178回 健康診断を活かす ■
~白血病と闘う その10~

医師 小澁 陽司
     

             
  今回からは本題の「骨髄異形成症候群
 (MDS)」に戻り、ご説明を再開しましょ
 う。

  前々回の当コラムにおいて、骨髄異形成
 症候群と白血病が決定的に異なるのは、白
 血病の場合、赤血球・白血球・血小板を産
 生する造血幹細胞が白血病細胞に変化する
 ことで発症するのに対し、骨髄異形成症候
 群では、同じ造血幹細胞でもそれが異常な
 クローン(異型クローン)に変化して増殖
 するため発症する点であるとお話ししまし
 た。
  前回ご紹介した余談も含め、クローンが
 「ある生物の遺伝情報とまったく同じ遺伝
 情報を持って誕生した生物のこと」である
 のは、すでにご理解いただけたと思います。
  この定義は骨髄内でも同じで、もともと
 わずか1個の正常な造血幹細胞から異型ク
 ローンが誕生して徐々に増殖を始めると、
 ついには正常な幹細胞よりも数が増えてし
 まい、やがてそれらのクローンに占拠され
 た骨髄が機能低下を起こして骨髄異形成症
 候群を発症するのです。
  では、なぜ白血病細胞が出現するわけで
 はない骨髄異形成症候群が、「血液のがん」
 である白血病の類縁疾患に分類され、その
 仲間として認識されているのでしょうか。
  確かに、白血病の場合は一種のがん細胞
 である白血病細胞が無限に増殖していくの
 に対し、骨髄異形成症候群では造血幹細胞
 のクローンが増殖するだけなので、それだ
 け聞くと明らかながんの仲間とは言いにく
 いかもしれません。
  しかし、骨髄異形成症候群はその経過中、
 一部が急性骨髄性白血病に移行して重篤化
 することが知られており、慎重な経過観察
 や治療が必要な「前白血病状態」というべ
 き疾患であるため、特別な存在として血液
 のがんのひとつに位置付けられているので
 す。
  このように極めて重要な血液疾患として
 有名な骨髄異形成症候群ですが、発症初期
 は緩やかな進行を見せることがほとんどで、
 劇的な症状といったものがありません。
  ただし正常の造血幹細胞が異型クローン
 の台頭によって減少し、骨髄の中で正常な
 血球が作られなくなってくると、徐々に症
 状が出始めます。
  例えば、骨髄異形成症候群の骨髄を顕微
 鏡で観察すると一見正常に近いのですが、
 実は異型クローンが増えているため細胞数
 自体は増えており(これを『骨髄の過形成』
 といいます)、しかもここから普通に血球
 が産生されているように見えるものの、ちゃ
 んとした造血幹細胞ではないので正常な血
 球として成長せず、作られては壊れていく
 という無駄な造血を繰り返してしまいます。
  これが骨髄異形成症候群を特徴付ける所
 見のひとつ、「無効造血」と呼ばれる現象
 で、また同時に、血液中の正常な血球の数
 が少なくなるため、慢性的な貧血(不応性
 貧血)、白血球数異常、血小板減少などが
 起こり、それによる全身倦怠感、動悸、息
 切れ、免疫力の低下、皮下出血や内出血
 (あざ)などが出現してくるのです。
  発症初期の進行が緩やかな本疾患は、健
 診および人間ドックの採血や、たまたま外
 来で採血を受けた際に貧血を指摘され、精
 密検査で初めて見つかるケースが多く認め
 られます。しかし、ただの貧血だとたかを
 括って診断や治療を受けないでいるのは、
 大変危険だと言わざるを得ません。
  また、40~50代以上の中高年男性に
 多く発症することも特徴的で、高齢化社会
 の訪れとともに今後の患者数増加の可能性
 が指摘されている疾患でもあるため、これ
 からは医療従事者も慢性的な貧血がある患
 者さんに対し、より慎重な姿勢で臨む必要
 があるといえるでしょう。
  最後に治療ですが、軽症の場合は経過観
 察を続けるだけのこともしばしばです。そ
 の後、病期進行の状態に応じて赤血球輸血、
 赤血球や白血球を増加させる薬剤の投与、
 そして抗がん剤および造血幹細胞移植とい
 った治療を行っていきます。
  そして、骨髄異形成症候群の経過中にと
 りわけ重要となるのは、免疫力低下が招く
 感染症などの防止です。白血球の減少によ
 り、病原体(細菌、ウイルス、カビ)から
 体を守れなくなると、肺炎などの疾患を起
 こしやすくなりますので、それらのケアを
 しっかり行い、患者さんに安心した生活を
 送って頂くことが重要になるのです。


























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