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■ 第174回 健康診断を活かす ■
~白血病と闘う その7~

医師 小澁 陽司
     

             
 今回からは、「リンパ性白血病」のお話
に移りましょう。
 今までご説明してきた骨髄性白血病と同
様に、リンパ性白血病も急性と慢性に分類
され、それぞれ固有の特徴を備えています。
 骨髄性白血病と比べて全白血病に占める
割合は少ないとはいえ、あらゆる点でリン
パ性白血病が大変重要な疾患であることに 
変わりありません。
 これからは、骨髄性白血病のことでいっ
ぱいになった頭の中をいったんリセットし、
リンパ性白血病の概要についてどうぞご高
覧ください。

 ③急性リンパ性白血病(ALL):最初
はまたも復習になりますが、正常な骨髄の
中では、造血幹細胞が細胞分裂を繰り返し
て各種の血球を産生しています。
 いわば、「血球の母」とも言うべきこの
造血幹細胞は、骨髄系幹細胞とリンパ系幹
細胞の2つの系統に分けられ、骨髄系幹細
胞から白血球の一種である顆粒球と単球、
赤血球、血小板などが作られます。
 そして、もう一方のリンパ系幹細胞から
は、やはり白血球の一種であるリンパ球が
作られ、それをさらに細かく分類すると、
Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞(ナチュ
ラルキラー細胞)といった血球が産生され
ています。
 このリンパ系幹細胞ががん化(白血病細
胞化)して、リンパ球だけが無制限に増殖
を始めてしまうのが、リンパ性白血病です。

 急性と慢性の区別はもうご理解頂いてい
ると思いますので説明を割愛し、今号はま
ず、「急性リンパ性白血病」についての解
説をいたしましょう。

 急性白血病の発症率を細かく見てみると、
急性骨髄性白血病を発症される方の大多数
が成人であり、小児にはあまり発生しませ
ん。しかし、それとは正反対に、急性リン
パ性白血病の患者さんは80%が小児です。
つまり、急性リンパ性白血病の最大の特徴
は、患者さんのほとんどがお子さんである
という点にあります。
 特に、2歳から5歳くらいまでの幼児に
最も多く発症し、小児白血病の大部分を占
めているばかりではなく、15歳未満のに
発症するすべてのがんの30%近くに相当
するのが、この急性リンパ性白血病なので
す。
 症状は急性骨髄性白血病に類似し、貧血
や感染、鼻血などから急速に病状が悪化し
てしまいます。小さなお子さんの場合、発
症初期は「いつもより元気がない」、「な
ぜか不機嫌」などといった程度の症状しか
ないこともあり、親にすれば風邪でも引い
たのかと思っているうちに急激に全身状態
が悪くなることもあるので、常に細心の注
意が必要でしょう。
 それに加え、急性リンパ性白血病では脳
などの中枢神経系に白血病細胞が浸潤しや
すく、頭痛や嘔吐、そして手や足などの麻
痺をきたすケースも知られており、少しで
も早い診断と治療が求められます。
 治療法は、急性骨髄性白血病と同じく、
抗がん剤を組み合わせた寛解導入療法や地
固め療法を行いますが、同時に、中枢神経
系への浸潤に対する治療や予防する治療も
忘れてはいけません。
 また、急性リンパ性白血病の治療の流れ
が急性骨髄性白血病と決定的に異なるのは、
寛解(骨髄中の白血病細胞がほぼ消失して
いる状態)が認められて治療を中止すると
再発することも多いため、そこに「維持療
法」を追加する必要があるという点です。
 維持療法とは、入院による一連のがっち
りした治療を終えたあと、外来において少
量の抗がん剤治療を数年間継続することで、
これで完全に寛解した状態が5年間続けば
初めて治癒とみなされるのです。
 さらに、急性リンパ性白血病に罹患され
た方の約4人に1人は、慢性骨髄性白血病
の患者さんにも認められるフィラデルフィ
ア染色体という特殊な遺伝子を持っている
ため、その遺伝子の存在が判明した症例で
は、前回ご説明した「分子標的治療薬」の
併用も可能になり、近年、治療成績が向上
し続けているのは言うまでもありません。
 こういった治療法の進歩によって、以前
は難治性の小児白血病の代表的存在であっ
た本疾患が、現在では80~90%近く治
癒するようになったことを、心から喜びた
いと思います。






















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