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■ 第164回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その110~

医師 小澁 陽司
     

             
  3.膵臓がん

  先日、筆者の外来を受診されたご年配の
 女性患者さんとお話をしている際、その方
 がふと、「そういえば、よくテレビで『膵
 臓がんは要注意』と言っていますよね。私
 みたいな素人には、何を注意すればいいの
 かピンと来ないのですけれど・・・」と仰
 いました。
 
  このやや漠然とした表現こそ、現在の我
 が国における膵臓がんの立ち位置を的確に
 示していると筆者は思います。
  もし、膵臓に関係する病気で、知ってい
 る病名をひとつ挙げてくださいと質問をす
 れば、やはり「膵臓がん」とお答えになる
 方は多いでしょう。
 
  しかし、膵臓がんの何がどう怖く、何に
 注意をしなければいけないのかまできちん
 と把握している方は、それほど多くないの
 ではないでしょうか?
  膵臓が体内の奥深く分かりにくい場所に
 存在し、さらに多岐にわたる役割を担って
 いるため、そこに発生する病気も一筋縄で
 はいかないということはすでに何度もお話
 しいたしました。
  膵臓疾患の中で最も有名ではあるけれど、
 今ひとつ理解されていない病気、それが膵
 臓がんであることは間違いありません。
  今号は、そんな膵臓がんの概要をかいつ
 まんでご説明いたしましょう。

  まずは単純に定義から。
  膵臓に出来る悪性腫瘍こそが「膵臓がん」
 です。ただし、膵臓から発生する悪性腫瘍
 を細かく分類するといくつか種類があり、
 そのうちの大半を占める「膵管から発生す
 る膵管がん」(浸潤性膵管がん)のことを、
 一般的に膵臓がんと呼んでいます。
  初期には典型的な症状がないことや、既
 述したように膵臓が腹部の奥深くに位置し
 ていることから、なかなか早期に診断する
 のが難しいがんの代表として知られ、健康
 診断および人間ドックでの入念な腹部超音
 波検査や腹部CTおよびMRI検査(特に
 MRCP検査)、腫瘍マーカーであるCA1
 9-9などの上昇によって発見されるケー
 スがよく見られます。

  当コラムの現在の主題である腹部超音波
 検査は、膵臓がんに対し最も簡便な検査法
 のひとつであり、まず初めに行うべき検査
 ですが、がんがまだ小さなうちにすべての
 症例が発見できるわけではないという点が
 従来からのジレンマでした。そこで最近は、
 口から入れる内視鏡(胃カメラ)に超音波
 機器を装着し、胃の壁や十二指腸の壁越し
 に膵臓へ超音波を当て、より肉薄した方法
 で膵臓がんが疑われる部位を観察するとい
 う方法も行われるようになっています。
 
  また、早期には特徴的な症状がなく、進
 行するに従って腹痛や黄疸、体重減少とい
 った症状が出現したり、急激に血糖値が上
 がってくるなどの異変が起こるため精密検
 査を受け、そこで初めて見つかる方もいら
 っしゃるというほど静かに悪化していく疾
 患ではありますが、膵臓がんの多くは、膵
 管の出口と総胆管が合流する部分に近い
 「膵頭部」から発生するため、まだ初期の
 うちにこの合流部を腫瘍が偶然ふさいでし
 まうと、胆汁と膵液の流れが阻害されるこ
 とで腹痛や黄疸が起こり、これが早期発見
 につながって手術を行える場合があること
 も是非知っておいて頂きたいと思います。
  他の臓器のがんと比べ進行が早いとはい
 え、手術によって切除可能な膵臓がんは、
 手術後の抗がん剤による化学療法や放射線
 療法との併用により、近年生存率が高まっ
 てきました。

  少しでも初期のうちに膵がんを発見する
 ためには、日頃からご自身のわずかな体調
 の変化に気を付けておくことと同時に、定
 期的な健康診断や人間ドック受診による腹
 部検査の継続が重要となるのは明白でしょ
 う。
  そして何よりも、膵臓がんの発症率を高
 める危険因子として知られているのは、喫
 煙、長期間にわたる糖尿病、肥満、お酒の
 飲み過ぎで起こる慢性膵炎などですので、
 禁煙・節酒はもちろん、日常的な生活習慣
 に充分注意し、近年増加傾向にある膵臓が
 んの発症を皆様それぞれの努力で予防する
 ことが最も大切だと考えます。












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