2.慢性膵炎
今回は急性膵炎の兄弟分に当たる、「慢性膵炎」についてお話しをいたしましょう。
慢性膵炎は急性膵炎と対をなす疾患であり、その名の通り慢性的に膵炎が持続する
状態です。急性膵炎は単発的な病気ですが、慢性膵炎は膵臓での炎症が長期間にわた
って継続するため、徐々に膵臓の細胞の破壊が進行し、膵臓機能が悪くなることによ
って全身に影響を及ぼすようになります。
慢性も急性も膵炎には変わりありませんから、初期の主症状はやはり上腹部痛や背
部痛、食欲不振、全身倦怠感などですが、慢性膵炎は経過が長くなるにつれ症状に変
化を認めるのが特徴で、その時期が3段階に分かれています。
まず、発症当初の時期は「代償期」と呼ばれ、この段階ではまだ膵臓の機能は低下
しておりません。膵臓の機能とは、既に何回も説明している膵液の分泌(外分泌機能)
や、インスリンといったホルモンの分泌(内分泌機能)を指し、代償期ではこれらの
分泌能が正常に保たれているため、先述した上腹部痛や背部痛を繰り返すことが主症
状となります。
続いてやってくるのが「移行期」で、この頃から膵臓の機能は悪化して徐々に膵液
やホルモンの分泌能が低下し始めますが、膵液の分泌量が減るために腹痛は逆に軽減
していくという、やや不思議な経過をたどります。
そして、慢性膵炎の発症からおよそ10年近く経ち、膵臓の機能がほぼ廃絶し外分
泌機能も内分泌機能も失われてしまった時期を「非代償期」と呼び、腹痛がほとんど
なくなる代わりに下痢、体重減少、そして糖尿病を発症することが知られています。
これは、長年の炎症によって膵臓内の正常細胞が線維組織化して膵臓全体が硬くなり、
消化酵素もインスリンもほとんど分泌されなくなるために起こるもので、特に消化不
良に伴う下痢は脂肪便(悪臭がひどく、水に浮いてしまう便)になってしまうことで
有名です。
上記の3つの段階を経て進行する慢性膵炎ですが、発症原因として最多なのは急性
膵炎と同じく長期にわたるアルコール多飲で、これが全体の約70%を占めています。
その他、胆石によるものや遺伝性のあるケースに加え、特発性といって原因不明の
症例も20%ほど認められ、男性の発症原因の多くがアルコール性であるのに対し、
女性では特発性が原因の約半数であると言われており、今後さらに研究が進み、今ま
で不明だった特発性慢性膵炎の発症機序が解明されていくことに期待が寄せられてい
ます。
慢性膵炎を診断するのに重要な手掛かりは、まず症状です。上述したような痛みの
訴えがある場合、問診で膵炎の既往歴とアルコール摂取歴を聞くのと同時に採血を行
い、アミラーゼやリパーゼなどの消化酵素が血液中で高値を示していたり、血糖値が
高く糖尿病の状態が悪いことが分かった場合には、積極的に慢性膵炎を疑って画像検
査を実施します。
最も簡便に行える腹部エコー検査では、膵臓の萎縮や、膵臓内に「膵石」と呼ばれ
る結石が出来ているかどうかを確認します。膵石は慢性膵炎患者の約40%に認めら
れると考えられており、膵石があると膵液が放出される膵管を塞いでしまうため、慢
性的な腹痛や背部痛が出現することが分かっています。
また、膵石はレントゲンにも写るので、腹部レントゲン検査も重要な診断方法のひと
つになります。
さらに腹部CT検査およびMRI検査、超音波内視鏡検査などが膵臓の大きさや形
状、膵管の状態などを観察するのに有用で、これらを組み合わせてなるべく早期に確
定診断を付けることが大切なのです。
そして、慢性膵炎との診断が付き、その患者さんの病状がどの時期にあるかを概ね
把握したら、いよいよ治療を開始します。
慢性膵炎の治療の基本は、すべての病期において禁酒、高脂肪食の禁止、そして薬
物療法(蛋白分解酵素阻害薬など)となりますが、そこに禁煙を加えるのが今や常識
になっています。
喫煙も急性膵炎の発症や悪化に関係していることが判明しており、さらに慢性膵炎は
膵臓がんを合併しやすいため、その予防も兼ねて禁煙は絶対に必要なのです。
その他の治療法として、膵石を超音波で砕いたり、内視鏡を使って狭くなっている
膵管を広げることや直接膵石を除去する治療などが行われますが、再発を繰り返す時
には、膵炎の合併症として出現しやすい仮性膵嚢胞などに対する外科的手術が実施さ
れる場合もありますので、いずれにせよ今のうちからアルコールの摂取量を減らし、
禁煙して健康的な生活を目指すのが一番安上がりでいい方法だと言えそうです。
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