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■ 第158回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その104~

医師 小澁 陽司
     

             ~君の膵臓を食べたい~
             
  2017年に実写版で映画化され、また今年2018年の秋には劇場版アニメ
 の公開も予定されているこのベストセラー小説のタイトルを初めて目にした時の
 衝撃は、きっと生涯忘れられません。
 
  勿論、かつてないほどのインパクトを持ったタイトルであることは確かなので
 すが、この題名が筆者の記憶に深く刻み込まれた他の理由として、ちょうどその
 頃に筆者の患者さんで膵臓疾患の発症を疑われた方がおり、今後どのようにして
 精密検査を進めていけばよいかということばかり日々考えていた時期であったた
 め、医学とは畑違いの文学界から突如現れた「膵臓」という臓器名を冠した小説
 をふと目にした瞬間、そのタイムリーさに思わず瞠目してしまったこともあるの
 でしょう。
 
  この卓越した青春小説の内容をここでご紹介することはあえてしませんので、
 ご興味をお持ちになられた方はどうぞ本をお手に取られたり、映画やアニメをご
 覧頂くことをお勧めいたします。
 
  しかし、とにかく膵臓という臓器は一筋縄ではいきません。
  
  膵臓を簡単に検査するのが困難であり、がんなどの悪性腫瘍の早期発見を難し
 くしている原因は、第一にその存在場所の複雑さが挙げられます。

  例えば、肝臓などはお腹の表面(皮膚)から近いところにあるため、腹部エコ
 ーのような簡便な検査で疾患を見つけやすいのですが、膵臓の場合は同じお腹の
 中でも、みぞおちのずっと奥深くの胃の裏側に存在しており、しかも背後に背骨
 があって胃と背骨に前後を挟まれているため超音波が届きづらく、エコー検査が
 大変行いにくいのです。
 
  エコー検査の基礎知識として、空気や骨は超音波を通しません。つまり、それ
 らに超音波を当てても跳ね返されてしまい、画像として見ることが出来ないので
 す。

  袋状の臓器である胃の中には空気が入っていますから、お腹(前側)から超音
 波を当てても胃内の空気が邪魔になって膵臓は見えにくく、逆に背中側から膵臓
 に超音波を当てても、今度は背骨や肋骨が膵臓の前に立ちはだかっているため、
 様々な角度から膵臓を観察するのが困難であるのはイメージ的にもご理解頂ける
 でしょう。
 
  また、膵臓は長径が15cmほど、横幅も3cm程度しかない横長の小さな臓
 器ですので、肥満してお腹が出ている方などは皮下脂肪が超音波の通過の邪魔を
 して、ますますエコー検査での観察が難しくなってしまいます。
 
  さらに、左右に細長く伸びている膵臓は3つの部位から構成されており、(先
 天的な内臓逆位症などがない通常の場合)ご自分の体の右側から「膵頭部」、
 「膵体部」、「膵尾部」と分けられていますが、一番右の膵頭部は十二指腸にすっ
 ぽりと包まれるような位置にあり、一番左側の膵尾部には脾臓が隣接している上、
 胃が覆い被さって二重に守られているために、まるで体の中で「箱入り娘」のよ
 うな状況に置かれているのです。
 
 
  以上のような理由から、最も簡便な検査方法である腹部エコー検査だけだと、
 小さな所見まで見つけることが意外に難しいとはいえ、健診やドック、そして外
 来診察において膵臓を最初に調べたいと思った時、やはり必須の検査になるの
 は腹部エコーに他なりません。

  特に、エコーの技術に長けている検査技師や医師が検査を行うことで、膵臓は
 かなり詳細な所見まで観察することが出来るため、悪性腫瘍でも早期のうちに発
 見することが決して不可能ではないのです。
 

  今回から本コラムでは複数回にわたり、腹部エコー検査で発見できる膵臓の所
 見を中心に、各種の膵疾患の解説を交えてお話を進めていきたいと思います。

  次号よりしばらくの間、膵臓という臓器の大切さを是非学んでみてください。







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