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■ 第146回 健康診断を活かす ■
~オウム病と人獣共通感染症①~

医師 小澁 陽司
     


 今年も春を迎え、桜の花々の儚くも凛とした美しさを愛でることができるこの季
節に、なんとも痛ましいニュースを耳にしました。

 それは、本来ならば日本国内において決して致死率は高くないはずの「オウム病」
に罹患した妊婦さんが、3月と4月の2ヶ月間で連続して2人も亡くなったという
報道です(2017年4月中旬現在)。

 しかも、免疫力の低下しているご高齢の方がオウム病に罹患して亡くなるといっ
た症例や、感染した妊婦さんが流産してしまうという事例はこれまでも稀にありま
したが、妊婦さん自身が死亡される症例は日本国内で初めてだったことから、今回
の事態が医療関係者に与えた衝撃は小さくありませんでした。

 厚生労働省が発表した資料によると、3月に亡くなった妊婦さんは妊娠24週目
に発熱および意識障害を起こして死亡されたのち、その臓器からオウム病の原因病
原体である「オウム病クラミジア(Chlamydophila psittaci)」
に感染していた証拠(遺伝子)が発見され、確定診断に至ったようです。

 この病名から予想できる通り、細菌の一種であるオウム病クラミジアは、オウム
を介して人間に感染するためオウム病と命名されたのですが、意外なことにオウム
だけがすべての感染源というわけではありません。実はオウムに限らず、ハトやイ
ンコ、カナリアなどの身近な鳥類からも人間に感染することが知られており、むし
ろ現在の感染源としてはインコが最多であると言われています。

 また、鳥類とは関係がない哺乳類の家畜(ウシ、ヒツジなど)から人間へ感染す
ることもあり、実際のところ「オウム病」という名称に惑わされてはいけないので
す。

オウム病に罹患すると、1~2週間の潜伏期を経て高熱や悪寒、咳、頭痛、だるさ、
などのインフルエンザに似た症状が出現し、気管支炎や肺炎を呈します。

 しかし、適切な初期治療を行うことさえできれば、通常、大事には至りません。
これは推測ですが、オウム病に罹患して気管支炎や肺炎症状の出た方が医療機関を
受診されても、オウム病を疑われることなく、マイコプラズマ肺炎と同じような非
定型的な肺炎として治療が開始され、すっかり治癒してしまう「知られざるオウム
病患者」も多いのではないかと考えられています。

 ただし、先に述べたように免疫力が低下している方が罹患し、重症化した場合に
は、肺炎から呼吸困難や意識障害を生じたり、髄膜炎、多臓器不全、ショック症状
を招いて不幸な転帰を取ることも稀にあり、初期段階での治療が重要であることは
言うまでもありません。

 治療としては、マクロライド系やテトラサイクリン系と呼ばれる抗生物質の投与
が有効です。

 さて、オウム病クラミジアが人間の体内に侵入する経路としては、感染源となっ
た動物の乾燥した排泄物の中に含まれている菌を吸い込んでしまうことや、ペット
を可愛がるあまり、つい口移しで餌を与えるために感染してしまうことなどが知ら
れています。

 感染している動物との濃厚な接触が、人間にとって危険であるのは間違いありま
せん。しかし、ここで見落とすわけにいかないのは、感染源となっているその動物
自身がオウム病を発症する危険性もあるということなのです。

 ペットとして鳥類を愛好していらっしゃる方なら、ことさら気を付けなければな
らない問題でしょう。

 このように、動物と人間のどちらにも感染する病気は「人獣共通感染症」と呼ば
れ、ほとんど馴染みのないものからよく知られた疾患まで多彩であり、臨床的に軽
視することができません。

 この人獣共通感染症に関して、筆者は医師になりたての頃に遭遇したある場面を
いつも思い出してしまいます。

次号は、その回想からスタートしましょう。



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