kenkou_bunner.gif
■ 第138回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その96~

医師 小澁 陽司
     

④腎石灰化

 前号まで3回に亘ってお読み頂いたのは腎結石のお話でしたが、今回の主題であ
る「腎石灰化」は、その腎結石と内容がリンクする所見です。

 当コラムでは過去、肺や肝臓の石灰化を取り上げて説明してまいりました。
 それらの文中で、既に何度も石灰化について解説いたしましたが、今一度改めて
簡単に触れてみましょう。

 石灰化とは、カルシウムが体の組織のどこかに沈着した状態です。
 そして、腎臓内にカルシウムの沈着が起こった場合、それを腎石灰化と呼んでお
り、さらに単純明快に定義してしまうと、腎石灰化は腎結石へと進展していく前段
階に当たります。

 前述した肺や肝臓の石灰化はほとんどの症例が病的意義を持たず、発見されても
放置可能であるのに対し、腎石灰化は進行するにつれ立体化していくと、腎結石に
変化する可能性を秘めているわけですから、健康診断や人間ドックで腎石灰化のご
指摘をお受けになった方は、これをお読みになり心中穏やかでないかもしれません。

 しかし、過度の心配はご無用です。
 腎石灰化のすべてが結石になるわけではなく、また、大部分の腎結石は無症状ま
たは背中の鈍痛程度の症状しかない上、運悪く腎結石が尿管にこぼれ落ち、尿管結
石となって停滞したり水腎症を惹起しなければ、あの激烈な痛みは起こりません。
 あるいは、腎結石が巨大化して腎機能障害などを起こさない限り、通常は大きな
問題とならないのです。
 勿論、腎石灰化の状態のまま経過すればほぼ無症状ですから、もし腎石灰化とい
う指摘を受けても必要以上に慌てず、様子を見ているだけでいいでしょう。
 ご心配であれば、1年に1回くらい腹部エコー検査で経過観察をして頂ければ充
分です。

 その腹部エコー検査ですが、腎石灰化と腎結石を発見するために最も有用な検査
として活用されている反面、両者の明確な区別を付けるのは意外と難しいことが知
られています。
 典型的な症例ならば簡単に鑑別出来ますが、腹部エコーの画像をたくさん見てい
ますと、これは石灰化か結石かどちらだろう…と思わず迷ってしまうことも少なく
ありません。

 両者に共通しているのは、「ストロングエコー」という所見です。
 これは、腎臓の内部に白く輝いて描出される部分があるということで、この所見
が見えた時には通常、石灰化か結石のどちらかを疑います。
 ちなみにこの所見は、カルシウム沈着や結石が出来る臓器であれば腎臓に限らず
どこでも認められます。
 たとえば胆石などが有名でしょう。
 
 そしてその他、とても重要なものとして「音響陰影(アコースティック・シャド
ー)」という所見があります。
 音響陰影とは、検査機器から出る超音波を反射してしまうほどの硬い物体が臓器
にあった場合、エコーの画像上では何も描出されない帯状の黒い影が、その硬い物
体から下に向かって伸びている様子を示したもので、腎臓の場合、通常そこには立
体的な結石が存在していることを意味します。
 つまり、腎臓のストロングエコーの下から黒い帯状の影が出ている時は腎結石を
考え、出ていない時には腎石灰化を考えなければいけない、というわけです。

 ところが実際には、なかなか簡単に鑑別できないケースも存在し、石灰化であっ
ても音響陰影が認められる場合や、結石なのにそれがないこともあり、何らかの症
状がある時は腹部CT検査などで確定診断を付けることになります。

 以上のように、腎石灰化自体は日常生活に大きな影響を及ぼすことがほとんどな
い所見であると言えますが、例外的に治療が必要となることもあります。
 それは「腎石灰化症」と呼ばれる疾患に伴う場合です。

 副甲状腺機能亢進症やサルコイドーシス、遠位尿細管アシドーシスといった聞き
慣れない名前の病気が原因となって、血液中や尿中のカルシウムが異常に高くなる
状態が続くと、腎臓の髄質という部位で広範囲に石灰化が起こってしまいます。
 これが腎石灰化症で、やがて腎機能障害をもたらし、ついには腎不全に至るため、
すみやかに原疾患の治療を行い、少しでも早く高カルシウム血症を改善しなくては
なりません。

 もし健診やドックで高カルシウム血症を指摘された場合は、放置せずに必ず精密
検査をお受け下さい。



(C)2000 The Soka Chamber of Commerce & Industry. All rights reserved.
E-mail:
sokacci@sokacity.or.jp
バックナンバー