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■ 第130回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その90~

医師 小澁 陽司
     
 今号と次号では、腎腫瘍(腎臓がん)の詳細についてお話しします。

 腎臓に発生する悪性腫瘍にはいくつかの種類があり、尿を産生する腎実質とい
う部分にできるものを「腎細胞がん」、産生された尿を集める腎盂という部分に
できるがんを「腎盂がん」と呼んでいます。
 このうち、腎細胞がんが全体の約90%を占めているため、臨床的には通常、
腎臓がんと言うと腎細胞がんのことを意味します(また、腎実質にできるその他
の悪性腫瘍として、『ウィルムス腫瘍(=腎芽腫)』というものもありますが、
これは小児にのみ発生するがんであるため、今回、詳細は割愛します)。
 本稿では、これから主として腎細胞がんのことを述べていきますので、ここで
本当に簡単ではありますが、「腎盂がん」について手短に説明しておきましょう。
 腎実質で作られた尿は、腎盂に集められたあと細長い尿管を経由し、膀胱へと
運ばれます。この腎盂と尿管から発生するがんが腎盂がん(腎盂尿管がん)で、
症状としては肉眼ではっきり分かる無痛性の血尿が有名です。腎細胞がんと違い、
膀胱がんの合併率が高いのも特徴のひとつですが、発症リスクとして喫煙との関
係がきわめて濃厚であることでも知られています。治療は、外科的手術および抗
がん剤を使用する化学療法が主流となっています。

 それでは、お話を再び腎臓がん(腎細胞がん)に戻しましょう。
 腎臓がんが発生するはっきりした原因は、残念ながらいまだに解明されており
ません。しかし以前から、腎臓がん発症の危険因子として、肥満、喫煙、高血圧
などが有力だということは分かっていました。これらの危険因子を持つ方は、健
常者と較べて最大で4倍ほど発症率が高くなるというデータがあり、該当される
方は生活習慣の是正が推奨されています。
 さらに、女性よりも男性に多く発症し(男性の発症率は女性の約2~3倍)、
50歳代以上の方に好発すること、また、腎不全のため長期間にわたり人工透析
をお受けの方や、特定の遺伝性疾患をお持ちの方にも高い確率で発症することが
知られています。

 さて、皆様が一番気になるはずの腎臓がんの症状ですが、先述したように今や
腎臓がんは無症状で偶然発見されることが多く、特に直径が5cm以下のものであ
れば症状はほとんど何もありません。しかし、がんが進行すると、「3大症状」
と呼ばれる症状が出現することがあります。
 それは、血尿、腹部のしこり(腫瘤の触知)、腹痛(脇腹の痛み)の3つです。
ただし、すべての症状が揃うことは滅多にありませんので、気になる症状が一つ
でも認められた時は、必ず泌尿器科または内科をご受診いただき、精密検査をお
受けください。
 また、腎臓がんがさらに進行すると、食欲不振、体重減少、発熱、倦怠感など
が出現し、さらに他の臓器への遠隔転移を起こしている場合には、その部位にも
症状が出現します。転移先として多いのは、肺、骨、脳、副腎、肝臓などですの
で、なるべく早くがんを発見するためには、日頃からの体調のセルフチェックが
重要となります。

 次号ではいよいよ、腎臓がんの早期発見における腹部エコーの重要性をご説明
したいと思います。


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