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■ 第123回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その85~

医師 小澁 陽司
     
 前回の当コラムの最後に、不規則脂肪肝のエコー検査所見は肝腫瘍と紛ら
わしいため、場合によりCT検査などで鑑別をする必要があると書きました。
 ご存じの通り、腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍が存在します。肝臓の悪性腫
瘍の代表はもちろん「肝臓がん」ですが、これは人間ドックや健康診断でも
あまり頻繁に認められるものではありません。しかし、良性腫瘍の代表であ
る「肝血管腫」は、意外なほど高い頻度でお目に掛かります。実際、ご自分
のドック結果用紙の腹部エコー所見欄に肝血管腫という文字を見つけ、びっ
くりされた方もたくさんいらっしゃるはずです。
 同じ肝臓の腫瘍でも、天と地ほどの違いがある両者。今回からは、これら
肝腫瘍の代表的なものについてご説明をいたしましょう。


②肝血管腫:肝臓に発生するものに限らず、腫瘍は上皮性腫瘍と非上皮性腫
瘍の二つに大きく分けられます。そもそも「上皮」とは何かというと、人間
の体のパーツのうち、外界と繋がっているすべての部分の表面を覆っている
細胞のこと。たとえば、体の表皮や消化管の内側の粘膜などがその代表であ
り、それらを構成している上皮細胞から発生した腫瘍を上皮性腫瘍と呼びま
す。一方、非上皮性腫瘍は上皮以外の部分、たとえば筋肉や脂肪、骨、血管
などから発生する腫瘍を意味します。さらに、この上皮性および非上皮性腫
瘍は、それぞれが悪性と良性に分類されています。
 要するに腫瘍には、悪性の上皮性腫瘍、良性の上皮性腫瘍、悪性の非上皮
性腫瘍、良性の非上皮性腫瘍の四種類が存在するわけです(ただし、例外も
あります)。

 今回のお題である肝血管腫は「良性の非上皮性腫瘍」のひとつであり、肝
臓に発生する良性腫瘍の中で最も数多く認められるものです。大きさは数ミ
リから数センチまでと幅があり、先天的に発生するものが多いと考えられて
いますが、発生する原因自体ははっきりしていません。かつて肝臓からこの
腫瘍を摘出して調べた際、多数集まった細い血管の中に血液が充満してスポ
ンジのような腫瘤を形成していることが分かり、血管腫という病名が付けら
れました(スポンジと海綿は同義語であるため、『肝海綿状血管腫』という
名前としても有名)。

 肝血管腫の多くは無症状であり、実は健診やドックなどの腹部エコー検査
において初めて発見される場合がほとんどといっても過言ではありません。
その腹部エコー検査では、腫瘍部分が白く見える「高エコー域」を認めるの
が典型的な所見ですが、腫瘍が大きいと腫瘍の周囲だけが高エコー域となり、
内部は黒く見える「低エコー域」となるものがあります。しかし時折、腫瘍
内部に高エコー域と低エコー域が混在して見える症例(混合エコー型)もあ
り、そのような非典型的なケースでは、腹部CTや腹部MRI検査による鑑
別診断が必要になるでしょう。

 無症状の肝血管腫の多くは治療の必要がなく、経過観察だけで十分ですが、
ごく稀に巨大化して周囲の腹腔内臓器を圧迫したり、破裂したりすることが
あるため、外科的手術が適用される症例もあります。腫瘍の大きさが10セ
ンチを超える肝血管腫を有する方で、腹痛や腹部膨満感といった症状が続い
ている場合は、ぜひ消化器専門医にご相談ください。


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