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■ 第117回 健康診断を活かす ■
~がんにならないために①~

医師 小澁 陽司
     
 今回の本コラムも、まず追悼から始まることをお許し下さい。

 去る11月10日、日本映画界の巨星であり、戦後の昭和を生きた日本国民の矜持
の原点ともいうべき存在だった俳優の高倉健さんが、悪性リンパ腫のためお亡くなり
になりました。
 長年にわたり、映画を通じて私たちに人間の本当の強さと優しさを教えて下さった
ことを感謝し、心からご冥福をお祈りしたいと思います。

 このたびの訃報に接した多くの方々にとって、主演映画の中で超人的な強さを誇る
その姿や、ほとんど明かされることのなかった私生活と重ね合わせ、誰にでも訪れる
「死」という人生のピリオドが健さんに、しかもこれほど急にやってきたということ
は、きわめて実感しにくかったのではないでしょうか。
 そんな健さんが患った悪性リンパ腫は、白血球の成分のひとつであるリンパ球が悪
性腫瘍化(がん化)して起こるもので、「血液のがん」とも称される疾患です。

 健さんは、普段から健康に人一倍気を遣っていらっしゃったようですが、それでも
血液のがんには勝てませんでした。まして、悪性リンパ腫はかなり治療成績の良好な
がんとして認知されていますので、健さんの場合、よほど悪性度の高い種類に罹患さ
れた可能性などが推察されます。このように、がんはある日突然、誰にでも襲いかか
ってくる不幸な出来事であるといってよいでしょう。しかし皆様の中には、多忙な日
常生活において、「自分ががんになるかもしれない」ということを忘れていらっしゃ
る方も多いのではないかと思います。そんな認識を改め、私たちは日頃からがんのこ
とを知り、いざという時、後手に回らぬよう迅速に立ち振る舞わなければなりません。
それでは、がんについて具体的に何を知り、どう行動すればいいのでしょうか?

 私たち医師がかねてより繰り返しお伝えしていることですが、がんへの最大の対策
は、まずがんにならないような生活習慣を身に付けること。次に、定期的に健診や人
間ドックを受診して頂き、ご自分の体の現状を把握して頂くこと。そして、そこでが
んが発見されてしまった時は、なるべく早く治療を受けてがんを根治させる、という
ことに尽きます。しかし、なんといってもがんの発症を未然に防ぐことが、ご自分や
大切な方々の命を守る近道となることは言を俟たないでしょう。

 そこで、今回と次回の当コラムは、がんにならないために私たちが日常生活におい
て気を付けなければいけないことを、解りやすくご説明していきたいと思います。

 まずは基礎的なことになりますが、がんという病気の主役は言うまでもなく「がん
細胞」です。ずる賢いがん細胞は、生体内の免疫機構(精緻に構築された人体の防御
システム)をうまくすり抜けていったん増殖を始めると、あらゆる部位の正常な組織
を情け容赦なく乗っ取っていきます。そして、いつしかがん細胞に置換されたその臓
器が機能不全を起こし、やがて生体は死に至ることになるのです。しかし現在、この
がん細胞の発生と増殖に対抗する科学的な根拠に基づいたがんにならないための方法
が提案されており、その代表的なものが国立がん研究センターがん予防・検診研究セ
ンターの発表した、「日本人のためのがん予防法」にまとめられています。

 次号は、その内容をご紹介しましょう。

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