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■ 第111回 健康診断を活かす ■
~糖尿病と脳梗塞 その②~

医師 小澁 陽司
     
 糖尿病を患っている方の血糖コントロールが上手くいかず、糖尿病慢性期の状態
が長く続いてしまうと、やがて合併症を起こすことは前号で触れました。

 糖尿病の合併症は、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害からなる
「3大合併症」をはじめとした多彩なもので、それらの原因は、細い血管に起こる
「微小血管障害」と、太い血管に起こる「大血管障害」の2つに分類することが出
来ます。つまり、糖尿病の合併症は、大小様々な血管が高血糖によって障害され、
動脈硬化が進行することによって発症するわけです。
 それではまず、微小血管障害によって起こる合併症の主なものを列挙してみましょ
う。なお、3大合併症はすべて微小血管障害に属します。

 ①糖尿病性腎症:腎臓は、循環している血液をきれいにする役目を担った臓器です。
体内で作られる老廃物を血液中から取り除き、尿と共に体外へ捨てる機能を有してい
ます。
 この腎臓を通る血液は、毛細血管が多数集まった糸球体と呼ばれる部位を通過して
きれいにされますが、それらの毛細血管が高血糖によってダメージを受けると尿を作
ることが困難になり、腎機能障害ひいては腎不全へと進行していきます。これが糖尿
病性腎症と呼ばれる状態で、最終的には血液透析が必要になってしまう場合も多い、
危険な合併症です(現在、我が国で人工透析になる原因の第1位)。

 ②糖尿病性網膜症:網膜は眼の構成要素のひとつであり、視力に関係した重要な部
位です。ここには、腎臓と同様に毛細血管が多数存在していますが、高血糖が続くと
毛細血管が破れやすくなって出血したり、あるいは、途絶した血流を再開させるため
網膜に新生された血管がまたすぐに破れ、さらに出血するといった事態を繰り返しま
す。それがやがては視力の低下や失明につながるため、糖尿病性網膜症にはきわめて
強い警戒が必要となるのです。

 ③糖尿病性神経障害:高血糖状態が長いと、微小血管の近くにある末梢神経や自律
神経が変性を起こし、その結果、手足のしびれや立ちくらみ、発汗障害、インポテン
ツ、便秘や下痢といった胃腸障害などが惹起されます。これが糖尿病性神経障害とい
う合併症で、その他にも、心筋梗塞を起こした時に胸部の痛みを感じない状況(無痛
性心筋梗塞)といった、死に直結する知覚障害をもたらす場合もあるため、充分に注
意しなければなりません。

 それでは続いて、大血管障害によって起こる合併症を列記しましょう。

 ④心筋梗塞・狭心症:心臓の筋肉に酸素や栄養を供給している冠動脈という太い動
脈が、長期間の高血糖により動脈硬化を起こすため、糖尿病のない人に比べて発症し
やすくなるのが心筋梗塞や狭心症です。特に心筋梗塞は、先述したように無痛で起こ
ることが知られており、発見が遅れるため重症化しやすいことが問題になっています。

 ⑤閉塞性動脈硬化症:④と同様の機序で、主に両足の動脈に起こるのがこの疾患で
す。程度が軽い場合、症状は足の冷感などが主体となりますが、進行すると足の潰瘍
や壊疽(壊死した部分が腐敗すること)を起こし、甚だしい時には足の切断手術が行
われることもあります。

 ⑥脳梗塞:そして、前回と今回のコラムの締めとして最後に記さなければならない
合併症が、この脳梗塞です。前号の冒頭で触れた中華料理界のスターシェフは、糖尿
病から脳梗塞を起こし、華やかな人生の幕を閉じました。糖尿病による動脈硬化から
脳梗塞を起こす人は、その発症年齢が比較的若年であることが知られており、それゆ
えシェフもまだまだお若くして、このように不幸な転帰を取られたのでしょう。ご冥
福を心よりお祈りしながら、今号の読者の皆様がご自分の健康を見つめ直す機会とし
ていただければ、あの優しい笑顔のシェフも天上で喜んで下さるに違いありません。

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