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■ 第108回 健康診断を活かす ■
~チャーグ・ストラウス症候群と「難病」について①~

医師 小澁 陽司
     
 遠きロシアの地、ソチにおいて熱戦が繰り広げられた2014年冬季オリンピック。

 競技参加者や応援する人々のさまざまな思いが行き交ったこの祭典が無事に閉幕して
から、すでに1カ月になります。
 今大会でも、日本人選手団の成績や個々のエピソードなど、連日話題は尽きませんで
したが、その中でとりわけ筆者の目を引いたのは、ジャンプ男子ラージヒル団体で見事
銅メダルを獲得した我が国の選手の一人が、難病である可能性が高いなか競技に出場さ
れていたというニュースです。
 その難病の名は、「チャーグ・ストラウス症候群(アレルギー性肉芽腫性血管炎)」。
つい最近(2013年)、国際的な正式名称が「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」に変
更されたため、今後はこの名称で呼ばれることになりますが、本稿ではそのままチャー
グ・ストラウス症候群と表記していきましょう。
 この病気の大部分が、成人になってから起こった気管支喘息およびアレルギー性鼻炎
に続いて発症することや、血液検査で好酸球増多(アレルギーに関与している白血球の
一種が増えること)が認められることから、発症にはアレルギー性の機序が関係してい
ると考えられていますが、詳しい原因は未だに解明されていません。
 やや専門的な話にはなりますが、本疾患の特徴は血管壁の内部に好酸球が侵入して血
管炎を起こし、その炎症反応によって形成される肉芽腫という腫瘤が血管の内外に多発
します。そのため症状としては、炎症や肉芽腫が周囲に及ぼす影響により、発熱や末梢
神経炎によるしびれ、筋肉痛、体重減少、紫斑(青あざ)、消化器潰瘍、心筋梗塞や脳
梗塞、脳出血などを起こすことが知られています。
 本症が疑われ、現在も治療継続中であることを公表した26歳のジャンプ選手も、今
から2~3年前に気管支喘息に罹患し、そのあとチャーグ・ストラウス症候群を発症し
た疑いがあることから、いわば典型的な経過をたどったものと考えられます。ただし、
もしこの疾患であれば、適切な治療が行われることにより軽快する症例が多いので、類
稀な精神力と強靭な肉体により今回の栄冠を手にされたことに続き、今度は体調を回復
することに集中され、これからもますます世界の大舞台で活躍していただきたいと思い
ます。

 さて、このチャーグ・ストラウス症候群のことを、ニュースの中では「難病」である
と報道しておりました。医療機関にあまり縁のない健康な方々にとって、難病と呼ばれ
る病気は、イメージだけ思い浮かべると皆様それぞれがいろいろな想像をされるのでは
ないかと思います。例えば、根治が困難ながんであるとか、治療法が見付かっていない
感染症であるとか…。
 一般的な概念だと、ぼんやりとした輪郭でしか捉えられない感もありますが、実は我
が国では現在、130種類の疾患が「難病」として指定されているのです(2014年
現在)。
 この130疾患は正確に言うと、厚生労働省の行っている難治性疾患克服研究事業の
対象疾患であり、これらの疾患の原因や治療法について、日々研究調査が行われていま
す。本号はここで紙面が尽きました。次回も、難病についてのお話を続けます。


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