前回までの当コラムでは、胸部レントゲン検査で認められる代表
的所見のうち、肺野において指摘されるものをご紹介してまいりま
したが、今回からは「胸膜」に関係した様々な所見を解説してゆき
ましょう。
それではまず、胸膜とは何かについてのお話しです。
このコラムですでに触れたように、胸膜は、胸郭という肺を守っ
てくれる鎧(よろい)の中に存在します。胸膜には2種類あり、胸
郭のすぐ内側(胸壁)に張り付いている方が壁側胸膜、臓器である
肺を覆っている方が臓側胸膜と呼ばれています。柔らかい肺を覆う
胸膜は、いうなれば肺に着せている肌着のようなものでしょう。
それら2種類の胸膜に挟まれた狭い空間を胸膜腔といい、ここに溜
まる水を胸水と呼びます。胸水は健常人の胸膜腔にもわずかに存在
し、呼吸の際に胸壁と肺とが摺り合う時の潤滑油的な働きをしてい
ますが、問題となるのは病的な状態の時に出現するものです。
以下、その詳細についてご説明をいたしましょう。ちなみに健診結
果表への記載は、「胸水貯留」という所見名になります。
⑧胸水貯留
何らかの原因で胸膜腔に胸水が貯留してくると、胸部レントゲン
写真ではその部分が白くなってきます。正常な胸部レントゲン写真
(立って正面から撮影した場合)を見た時、左右の肺の一番下はそ
れぞれ下向きに尖っているのですが、胸水が重力方向に溜まってく
るとその尖った部分が丸くなり、白い陰影が肺を侵食するかのよう
に拡がってくるのです。
この胸水を性質から大別すると2種類のタイプがあり、ひとつは滲
出性胸水と言い、もうひとつを漏出性胸水と言います。
滲出性とは、血管の壁から血液中の蛋白質や白血球、細胞成分など
が水分とともに滲み出してきた濃い胸水で、原因疾患としては肺が
ん、悪性胸膜中皮腫などの悪性腫瘍、肺炎や結核といった感染症、
膵炎などの炎症性疾患、関節リウマチなどの膠原病が挙げられます。
一方、漏出性とは、浸透圧の変化などによって血管から水分だけが
漏れ出したため、比較的さらりとしている胸水で、原因疾患として
は心不全、肝硬変や腎臓のネフローゼ症候群(これらの疾患は、腹
水も一緒に出現します)などが代表的なものです。
また、特殊な胸水として、胸部の外傷によって血液が貯留してしま
う血胸や、感染症によって膿が溜まってしまう膿胸などもあり、
健診の胸部レントゲン所見欄に「胸水貯留」と記載があった時、
一刻も早い精密検査が必要となるのはこれでもうお解りでしょう。
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