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■ 第87回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その69~

医師 小澁 陽司
 ⑤石灰化巣
「石灰」とは、カルシウムのことです。
肺に炎症性疾患が起こり、それが長引いたり治癒してゆく過程で肺
の組織が壊れ、その部分にカルシウムが沈着してしまうことを石灰
化と呼びます。そして胸部レントゲン上、大抵の石灰化は円形か楕
円形の白い陰影としてはっきり塊状に写るため、これらの所見を石
灰化巣と表現するのです。
冒頭に書いたように、石灰化は炎症性肺疾患によって起こりますが、
石灰化巣を形成する肺疾患の代表的なものが結核です。結核は慢性
の炎症性疾患ですので、治癒に時間がかかり、その間に肺組織に変
化が生じて石灰化巣を作ります。治療薬の進歩により、現在の日本
において結核はかつての患者数ほどではなくなったため、石灰化巣
が認められるのは必然的にある程度ご高齢の方に多いのですが、勿
論若い方でも指摘を受ける場合は少なくありません。
また、結核以外の慢性炎症、例えば肺炎が長引いた場合などでも石
灰化巣は出現しますが、いずれのケースにおいても石灰化巣は炎症
の古い傷跡のようなものですので、もし健診でご指摘を受けても、
単に「そういう所見がある」ということで、大きな問題はないこと
がほとんどです。

 ⑥空洞
前項からのつながりで、肺結核の時に認められる代表的所
見をもうひとつご説明いたしましょう。
結核は、発症してから未治療のまま放置してしまうと、病状の進行
に伴って肺の中に病巣の塊を作っていきます。それがどんどん大き
くなると、その病巣の内部が腐ってどろどろになってしまいます
(この状態を『乾酪壊死』といいます)。病巣は気管支に出来るこ
とが多いため、やがて気管支というダクトを介して中身のどろどろ
した成分が外に出て行ってしまうと、その病巣は中が空っぽの状態
になります。これが「空洞形成」と呼ばれる現象であり、胸部レン
トゲン写真ではっきりと分かる所見のひとつになります。
実はこの空洞が曲者で、空洞の中では結核菌が驚くほどたくさん増
殖しており、それらの菌が気管支を通ってどんどん外へ排菌されて
いきます。つまり空洞を持っている方は、周囲にいる人へ結核菌を
感染させる可能性が大きいということになるのです。
胸部レントゲン上、空洞を形成する疾患として有名なものは、結核
のほか、肺がん(主に扁平上皮がん)、アスペルギルス症(カビの
一種であるアスペルギルスが肺内で増殖し、菌球と呼ばれる空洞の
ある病変を形成します)、非結核性抗酸菌症、肺化膿症などがあり、
健診でこの指摘をお受けになった場合は、前項の石灰化巣とは違い、
絶対に精密検査が必要です。
            
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