今号も胸部レントゲン(X線)検査の肺野における代表的所見を解説し
ます。
③浸潤陰影:今まで幾度かご説明したように、肺の中で気管が分岐を続け
て細気管支になったその先端は、肺胞という部分で終点になります。
肺胞は丸い袋状の構造をしており、本来は空気しか存在しません。
ところが、肺炎などの炎症が起こり肺胞内に液体成分が貯まってしまう
と(炎症が存在する部位には水分が集まってくるため)、ちょうど化学の
実験で使う丸いフラスコに濁った水を入れると向こう側がよく見えなくな
るように、胸部レントゲン上でもその部分の肺野がもやもやして鮮明に見
えない状態になってしまうのです。これを浸潤陰影と呼びます。
所見について少し余談となりますが、肺の気管支の中に存在する空気は、
健康な状態で撮影した胸部レントゲン上でははっきりと写りません。しか
し、この浸潤陰影があると、液体が貯留した肺胞に周囲を囲まれた気管支
の中に残っている空気だけが、その陰影の白いもやもやを背景にし、レン
トゲン上で線状に浮かび上がって見えてくるのです。これが有名な「エア
ブロンコグラム」と呼ばれる所見で、肺病変の鑑別診断にとって重要なも
のになります。
さて、私ども医師が胸部レントゲンで浸潤陰影を発見した時にまず最初
に考える疾患は、肺胞そのものに炎症を起こす肺炎(肺胞性肺炎)で、そ
の代表的なものが細菌性肺炎です。
細菌性肺炎の中でも肺炎球菌によるものが有名ですが、最近はテレビの
CMなどによって肺炎球菌ワクチン普及のための啓蒙活動が展開されてお
り、皆様もご記憶にある名前だと思います。
また、細菌性肺炎の原因となるものにはインフルエンザ菌(先般大流行
した『インフルエンザウイルス』とは別物で、こちらは『細菌』です!)
もあり、肺炎球菌とともに抗生物質による治療が必要ですので、健診で浸
潤陰影のご指摘を受けたらすぐに医療機関をご受診ください。
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