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■ 第83回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その65~

医師 小澁 陽司
 前回までのテーマであった喫煙関連疾患の項で、「呼吸器疾患」につい
て少しご説明をしたのは、まだ記憶に新しいところです。

 肺や気管支などの病変を総称してそう呼ぶわけですが、一言で呼吸器疾
患といっても、かぜ(風邪症候群)や急性気管支炎といった日常的な臨床
でよく遭遇するものから、肺炎、喘息、肺がんなど、重篤化すれば生命を
脅かす可能性のあるものまで多彩であり、その検査法までがそれぞれ違っ
ています。

 私どもが実施している健康診断において、この呼吸器疾患を炙り出す一
般的な検査法が、胸部レントゲン(X線)検査と医師による胸部聴診の組
み合わせです。

 このほか、呼吸機能検査(ホースのようなものを口でくわえ、『息を大
きく吸って、プーっと強く吐いてー!』という、あのちょっとコミカルな
感じを受ける検査)や喀痰細胞診検査などを受診者全員にお受けいただく
のが理想的なのですが、現状での全例実施は難しいため、やはり胸部レン
トゲン検査の診断精度を高め、診察室で医師が呼吸音をじっくりと聴診し、
その組み合わせで結論を出すということが現実的にはベストな方法といえ
るでしょう。

 今回からは、皆様の健診結果表に記載されるこの胸部レントゲン検査の
代表的所見名とその意味について、数回に分けてご説明してみたいと思い
ます。

 しかしその前に、肺や気管支の構造を少し勉強しておかないと、呼吸器
の病気を理解するのは難しいかもしれません。
残された紙面を利用して、今号は呼吸器の基礎的な事項を綴ってまいりま
しょう。

 第80回の当コラムで少し触れたように、肺は空気中の酸素と体内の二
酸化炭素を交換する役目を持つ臓器です。柔らかい肺は、胸郭と呼ばれる
肋骨と筋肉で構成された鎧(よろい)のような入れ物に守られ、左と右に
ひとつずつ存在します。その両肺のほぼ中央部、縦隔という場所に入って
いるのが心臓です。肺と心臓の底の部分には横隔膜が座布団のように敷い
てあり、横隔膜から下は「腹腔」という別の空間になります。

 胸郭の内側で肺全体を包んでいるのが胸膜で、ここが炎症を起こすと胸
膜炎と呼ばれます。もちろん、その中身の肺が炎症を起こすと肺炎と呼ば
れますし、外界と肺との通用口である気管支が炎症を起こすと気管支炎に
なります。

 その気管支は、表玄関である口と鼻から一本道(気管)で降りてきて、
やがて心臓にまたがるような形で左右に分岐します。気管はここで初めて
気管支と呼ばれるようになり、それぞれ左右の肺に入っていきます。肺に
入った気管支は、左右の肺がいくつかの区画に分かれているのに合わせ、
さらに細かく分岐します。ちなみに肺は、右肺が3つの区域(上葉、中葉、
下葉)、左肺が2つの区域(上葉、下葉)に分かれていて、その区画ごと
に隅々まで気管支が広がっています。そこから先はさらに小さい細気管支
へと分枝し、いよいよ最後は酸素交換を担う肺胞という場所で行き止まり
になるのです。

 それでは次号から、胸部レントゲン検査の所見をご説明してまいりまし
ょう。
            
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