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■ 第56回 健康診断を活かす~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その48~
 医師 小澁 陽司 ■
 今回ご紹介する心疾患の名前は「WPW症候群(そのまま『ダブリュー・ピー・ダブリュー』と読みます)」。

 前回ご説明をしたブルガダ症候群と比べ、昔からメジャーな心疾患のひとつですので、ご存じの方は多いかもしれません。しかし、疾患の内容よりも何よりも、一番目を引いてしまうのは、WPW症候群という、その不思議な名前でしょう。

 医学の世界では、新しい疾患が発見されるとその発見者に敬意を表し、彼らの名前を採って疾患名を決めることが珍しくありません。有名なものでは、アルツハイマー病やバセドウ病といった疾患がありますが、これらのように発見者一人の名前だけで済めば話は簡単です。しかし発見者たちがチームを組んでおり、共同研究者として論文を発表していますと、その命名法はちょっと複雑なことになってしまいます。実は今回のWPW症候群は、このパターンの代表的なものなのです。

 Wolff博士とParkinson博士とWhite博士という三人の循環器病の研究者が、1930年に心臓の特殊な症候群についての論文を連名で発表したことから、この新しい症候群は三人の苗字を採り、さらにその頭文字を採ってWPW症候群と命名され、約80年経った現在までその名が残ることになりました(確かに正式名称のままでは長いですものね)。

 WPW症候群は、突然起こる頻拍発作(発作性上室性頻拍)を主症状とし、心電図上に「δ(デルタ)波」と呼ばれる特殊な波形を出現させることが特徴です。心房から心室に流れる電気の経路が先天的に二つある方では、流れてきた電気がその二つの経路をくるくると回転しまうため、心筋がそれに勝手に反応して脈が速くなってしまうことがあり、これがWPW症候群の頻拍発作の原因と考えられています。心電図上にδ波などが認められるだけで、今まで症状が出ていない方は経過観察のみで大丈夫ですが、頻拍発作の既往がある方は心房細動などの危険な不整脈に移行する危険性もあるので、循環器科への定期的な受診が必要です。

 余談になりますが、前回ご説明したブルガダ症候群も人名から命名されており、しかもこの命名は、三人の循環器研究者が連名で発表した論文を元にしているのです。それではなぜ、この症候群には一人の人名しか付いていないのでしょうか?実はこの三人の共同研究者は、「ブルガダ三兄弟」という家族だったのです!このため、人名は一つで充分だったというわけです。事実は小説より奇なり、ですね。

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