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■ 第180回 健康診断を活かす ■
~ウイルスの基礎知識①~

医師 小澁 陽司
     

             
 今からほぼ1年前、白血病との闘病を公
表された競泳の池江璃花子選手が幾多の困
難を乗り越え、昨年12月にめでたく退院
されました。池江選手を応援する目的で始
めた白血病についてのお話を1年にわたり
連載してきたことで、当コラムも少しは皆
様のお役に立てたのではないか・・と自負
し、今回からはその集大成となる「悪性リ
ンパ腫」についての詳細な説明を開始しよ
うかと思っていた矢先の2020年1月以
降、中国を中心として近隣のアジア諸国を
恐慌状態に陥れる感染症が拡大し始めたこ
とは、もはや周知の通りでしょう。
 それはもちろん、新型コロナウイルス感
染症です。今回はこの話題に触れないわけ
にはいきません。
 ただし、感染症という疾患は病勢の変化
していくスピードが速く、たとえ1か月と
いう短期間でも状況がかなり変わってしま
うことがよくあります。
 本稿執筆中の2020年2月中旬現在、
新型コロナウイルスについては、連日新た
な感染者や不幸にして亡くなられた方の話
題を中心に様々な議論や憶測が途切れませ
んが、こんな状況も1か月後には大きく変
化している可能性があるのです。
 今回の原稿が皆様のお目に触れるのは、
現時点から約1か月後。その時点で、この
感染症の推移がどうなっているか正確には
判断できません。
 つまり、現在の新型コロナウイルス感染
症の状況を本稿がリアルタイムでお伝えす
るのは困難であり、テレビやネットのニュ
ースに任せるのは当然なのです。
 そこで今号の当コラムの使命は、新型コ
ロナウイルスを筆頭とするウイルスの基本
中の基本について皆様にご理解いただくこ
とであると考え、速報を伝えるのに忙しい
テレビやネットではなかなか触れてくれな
い基礎知識をご説明してまいりましょう。

 まずは、ウイルスと細菌の違いから。
 ウイルスも細菌も、人間に感染して病気
を引き起こす微生物の一種ですが、ここで
混同しやすいのは、細菌はその体内に細胞
を持って生命活動を行い自分で子孫を増や
すため、はっきり「生物」の仲間として分
類できるのと対照的に、ウイルスは細胞を
持たず、単体で増えていくのが不可能なこ
とから、「生物であるとは断言できない」
という点です。
 それではウイルスは、どのようにして仲
間を増やしていくのでしょうか。
 人間などの生物に侵入したウイルスは、
まず細胞内に感染し、その細胞の栄養分を
盗みながら増殖(ウイルスは遺伝子を持っ
ているので、自分のコピーが産生できる)
を繰り返します。いわゆる「人の褌で相撲
を取る」わけですが、ウイルスが厄介なの
は、その他の細胞にもどんどん侵入して急
速に仲間を増やし、栄養を恵んでもらった
人間を発熱させるなど大暴れしたあげく、
やがて他の人間に感染し同じことを繰り返
しながら次々と被害者を増やしていくその
システムにあります。
 そしてさらに厄介な点は、細菌には抗生
物質が有効ですが、ウイルスにはまったく
効かないということ。
 この理由として、ウイルスと細菌は根本
的な構造が違うことが挙げられます。抗イ
ンフルエンザウイルス薬などのわずかな例
外を除き、ウイルスに効果的な薬剤がほと
んど開発されてないのも、今回のコロナウ
イルスの流行を食い止めきれない原因のひ
とつといってもいいでしょう。
 現在でも大抵のウイルス感染症は、ご自
分の自然治癒力に頼って治すしか方法がな
いのです。
 
 そういえば、抗生物質といえばこのお話
をしておかねばなりません。
 かつて我が国の医療機関では、細菌によ
る風邪もウイルスによる風邪も、みんなひ
とまとめにして抗生物質がどんどん処方さ
れていた時代があり、せっかく処方された
薬がウイルスに効かないばかりか、抗生物
質に負けないよう自らを鍛えた結果、薬に
対する「耐性」を身に着け、抗生物質が効
かなくなってしまった細菌、いわゆる薬剤
耐性菌が出現して大問題となりました。
 近年は徐々に薬剤耐性菌に対する認識が
浸透してきたため、抗生物質の乱用が減っ
てきている印象はありますが、今もなお臨
床の現場では多くの課題が残っているので
す。
 この続きは、さらに次号で。



























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