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■ 第176回 健康診断を活かす ■
~白血病と闘う その9~

医師 小澁 陽司
     

             
  白血病についての連載を始めた当初のお
 約束通り、当コラムでは白血病の代表的な
 4つの疾患をご説明するため、これまで数
 か月にわたって紙面を割いてまいりました。
  しかし、白血病の奥深い世界はそれで終
 わるわけではありません。白血病に関連す
 る病名はさらに細かく分類されており、そ
 れらが列記してある表を眺めているだけで、
 医療関係者といえども頭が混乱してしま
 うほど複雑なのです。
  そんな状況の中、以前から用いられてい
 る白血病分類法のひとつであるFAB分類
 では、白血病との線引きが難しい病気を
 「白血病類縁疾患」と定め、比較的分かり
 やすくまとめています。
  この類縁疾患に属する病気は、白血病と
 比べても遜色ないほど重要な疾患ばかりで
 すので、今号からはそれらについてのお話
 を進めていくことにいたしましょう。

  ⑤骨髄異形成症候群(MDS):唐突で
 すが、本稿が皆様のお目に触れる頃には日
 本でも公開されているハリウッド映画「ジ
 ェミニマン」は、主演のウィル・スミスが
 謎の組織によって作り出された23歳の自
 分のクローンと死闘を繰り広げるという内
 容で話題になっています。さて、このクロ
 ーンという言葉、皆様は正確な定義をご存
 知でしょうか?
  クローンとは、「一個の細胞あるいは個
 体とまったく同じ遺伝情報を持つ細胞や個
 体のこと」を指します。
  もう少し分かりやすく言えば、私たち人
 間をはじめとする生物は皆それぞれが独自
 の遺伝情報を持っており、それは生殖行動
 によって親から子供へと引き継がれます。
 しかし、ある生物の遺伝情報がそのまま丸
 々コピーされ、(生殖行動を必要とせず)
 まったく同じ遺伝情報を持つ生物が誕生し
 た場合、それをクローンと呼ぶのです。
  これは動物に限らず、植物でも同じこと
 で、そもそもクローンという名称が、農業
 で果物や野菜の生る木を増やすために行う
 接ぎ木(挿し木)に用いる「小枝」に由来
 していることからもお分かり頂けるでしょ
 う。私たちが日頃から食べているパイナッ
 プルやバナナ、サツマイモなど、接ぎ木で
 栽培されてどんどん増やされる農作物は、
 実はクローンそのものなのです!
  また、皆様の中にはクローンと聞くと、
 1996年に誕生し2003年まで生きた、
 世界初の哺乳類クローンである羊の「ドリ
 ー」のことを思い出される方がいらっしゃ
 るかもしれません。このドリーの誕生は当
 時大きな話題になり、その後に続くクロー
 ン動物誕生の嚆矢として記憶されています
 が、今や人類のクローン問題を筆頭とした
 倫理面や宗教的な観点に基づいたあらゆる
 議論を、現在に至るまで世界中で巻き起こ
 していくきっかけともなりました。
  このように、慎重な扱いが必要なクロー
 ンではありますが、人類が技術をもって意
 図的に作り出すものばかりではなく、自然
 界にもいわば「天然のクローン」は存在し
 ます。
  その代表的な存在が、「一卵性双生児」
 の双子ちゃんたちだと言えば皆様も納得さ
 れるでしょうか。
  1個の受精卵が2つに割れることで、全
 く同じ遺伝子の構造を持ったまま誕生する
 一卵性双生児は、まさしく天然のクローン
 であるといえます。
  また、フナの一種や外来種のタンポポ、
 そして竹林などはクローンとして繁殖して
 いくことが知られており、自然界の不思議
 さには瞠目させられることばかりです。

  さて、ここで本題の血液疾患に話を戻し、
 なぜ今号の本稿がここまで「クローン」に
 ついて多くを語ってきたか、その種明かし
 をいたしましょう。
  今回のテーマである骨髄異形成症候群の
 基本的な病態は、今まで何度もご説明して
 きた白血病の病態と共通しているのですが、
 その理由は白血病と同じく、骨髄の中で赤
 血球、白血球、血小板を産生する「造血幹
 細胞」の異常によるためです。
  白血病は、この造血幹細胞が白血病細胞
 に変化することで発症するのはもうご存知
 でしょう。しかし、骨髄異形成症候群の場
 合は白血病と違い、造血幹細胞の「異常な
 クローン」(異型クローン)が出現して骨
 髄内で増殖することにより、様々な症状が
 惹起されるのです。

  それでは、この続きは次号で。
























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