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■ 第173回 健康診断を活かす ■
~白血病と闘う その6~

医師 小澁 陽司
     

             
  前回解説をした急性骨髄性白血病と、今
 回ご説明する慢性骨髄性白血病は、まった
 く違う概念を持った別の病気です。
  以前も申し上げましたが、慢性白血病は
 急性白血病がそのまま慢性化した病気では
 ありません。この2つはそれぞれに分けて
 考えなければならない疾患であることをご
 認識頂いた上で、今号をお読み頂きたいと
 思います。

  ②慢性骨髄性白血病(CML):ここ数
 回の当コラムでご説明した通り、白血病は
 急性と慢性の2つに分けられ、骨髄内で白
 血球や赤血球、そして血小板などの血球を
 産生する骨髄系幹細胞が未熟なまま白血病
 細胞に変化(がん化)し、きちんと機能す
 る白血球へと成長しないうち無制限に増殖
 しはじめるため、症状が急激に悪化するも
 のを「急性骨髄性白血病」と呼ぶことは、
 もうご理解頂けたでしょう。

  一方、同じ骨髄性白血病でも「慢性骨髄
 性白血病」は、発症後の経過が緩やかなた
 め白血病細胞がそれなりに成熟し、ちゃん
 とした血球も骨髄内で作られることから、
 発症してからもしばらくは特別な症状はあ
 りませんが、進行してくるとやはり役立た
 ずの未熟な白血球ばかりを作るようになり、
 急性骨髄性白血病と同じような状態になる
 ものです。

  今回の主題である慢性骨髄性白血病は、
 発症初期に出現する症状がほとんどなく、
 検査所見として白血球数が多くなること以
 外、健常人と何ら変わりなく日常生活を送
 れることが知られています。そして、健康
 診断や人間ドックを受診した際、採血にお
 いて「白血球数増多」を指摘され、その精
 査を行って初めて本疾患であると判明する
 ことが多いのも特徴のひとつなのです。

  この疾患が辿る病期(病気の経過)は3
 段階に分けられ、第1段階は「慢性期」と
 呼ばれます。この時期は、多くの場合5年
 以上にわたって経過し、検査所見も白血球
 数や血小板数が正常よりも多い程度で、明
 らかな症状はありません。
  次の第2段階が「移行期」と呼ばれ、徐
 々に骨髄中で白血病細胞が増え、骨髄や血
 液の中に未熟な血球(芽球)が出現してく
 るのと同時に、貧血や感染症、だるさといっ
 た典型的な白血病の症状が現れてきます。
  そして第3段階が「急性転化期」で、こ
 の時期はもはや急性骨髄性白血病と同じ症
 状を示すため、やはり1日でも早い疾患の
 発見と治療が必要となることは言うまでも
 ないでしょう。

  その治療ですが、近年になり治療薬の発
 達が目覚ましく、極めて良好な治療成績を
 上げています。その代表的なものが、分子
 標的治療薬と呼ばれる種類の薬です。
  慢性骨髄性白血病の患者さんは、他のほ
 とんどの白血病とは違うある特徴を備えて
 いて、「フィラデルフィア染色体」という
 特殊な遺伝子を持っていることが知られて
 います。
  研究により、フィラデルフィア遺伝子の
 作る蛋白質が慢性骨髄性白血病の白血病細
 胞を増殖させることが分かったため、この
 蛋白質を標的として狙い撃ちにし、白血病
 細胞の増殖を抑えることに成功した薬こそ
 が分子標的治療薬なのです。
  現在、この薬のお陰で約90%異常の患
 者さんの予後が、長期にわたり良好な状態
 を保つことが出来るようになりました。

  成人に発症するすべての白血病のうち、
 約20%を占めている慢性骨髄性白血病も、
 今や決して不治の病ではなくなっているこ
 とは明らかです。
  まして、採血で偶然発見され、早期に治
 療を開始することが出来れば、より予後が
 良好であることも判明しているわけですか
 ら、健康診断や人間ドックという機会を利
 用することがいかに大切であるか、よくお
 分かり頂けることでしょう。





















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