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■ 第172回 健康診断を活かす ■
~白血病と闘う その5~

医師 小澁 陽司
     

             
  今回は、急性骨髄性白血病(AML)の
 続きです。

  前回、急性骨髄性白血病の症状が発現す
 るメカニズムとして、白血病細胞に占拠さ
 れた骨髄の中では正常な白血球および赤血
 球や血小板などの産生が困難になるため、
 様々な身体症状が現れるとご説明しました。
  実は急性骨髄性白血病の症状の出現に関
 しては、もうひとつ重要な原因が存在しま
 す。それは、異常増殖した白血病細胞その
 ものが、全身の様々な臓器に浸潤(不法侵
 入のようなもの)するために起こる症状で
 す。
  骨髄の中で無制限に増殖し続ける白血病
 細胞は、やがて血液中にこぼれ出てきて全
 身を巡り始めます。その結果として、歯ぐ
 き、肝臓、脾臓、背骨、関節といった場所
 に勝手に入り込んで増殖を始め、やがて臓
 器そのものを破壊してしまうのです。
  この、白血病細胞の浸潤という現象がも
 たらす症状は臓器によってさまざまで、歯
 ぐきの腫れや痛み、肝臓や脾臓の腫れとそ
 れに伴う腹部の張りや腹痛、腰痛、関節痛
 など多岐にわたり、少ない紙面ですべてを
 挙げることが出来ません。	
  前回お話した感染症や貧血、そして出血
 傾向などの症状と、今回ご説明した浸潤に
 よる症状が組み合わさることで、急性骨髄
 性白血病の病態は深刻さを増すことになり
 ます。

  では、人口10万人あたり3~4人に発
 症し、全白血病の中で最も多い急性骨髄性
 白血病の原因とは一体何でしょうか。
  正直なところ、それは現在でもはっきり
 解明されていないのです。
  これは白血病全般に言えることですが、
 遺伝子の異常が発症に関与しているという
 ことは間違いありません。しかし、先祖が
 白血病ならその子孫も白血病になるという
 わけではなく、いわゆる遺伝性疾患でない
 ことも分かっています。
  結局、白血病の原因はほとんど不明であ
 るため、現時点で有効な予防法も発見出来
 ていないのが実情なのです。
  だからこそ、前号の最後に記したように、
 急性骨髄性白血病の患者さんにとっては、
 迅速な診断と適切な治療の開始が最重要事
 項となるわけです。

  もし、症状や採血結果から急性骨髄性白
 血病が疑われた場合には、確定診断として
 骨髄穿刺という検査を行います。骨髄の組
 織を直接採取して顕微鏡で観察し、その中
 に「芽球」と呼ばれる白血病細胞が一定量
 を越えて発見されれば診断が付くのです。
  その後、分類法に則ってさらに細かい診
 断名が決まれば、すぐに治療を開始します。
  白血病では、完全な治癒を目指すために
 「寛解導入療法」と「寛解後療法」の二段
 階で治療を行います(寛解とは、治療を終
 えたあとの血液中から白血病細胞が減少あ
 るいは消失している状態のこと)。
  治療の基本となるのは化学療法(抗がん
 剤)で、治療内容を選択するにあたり、そ
 の患者さんの年齢や全身の健康状態を考慮
 するほか、初めての発症か再発かによって
 内容は変わってきますが、急性骨髄性白血
 病では、まず初めに化学療法を行って白血
 病細胞を骨髄から減らし、寛解の状態に持
 ち込むことを狙います。これが、寛解導入
 療法です。
  そして、骨髄の中に正常な造血細胞が増
 えてくるのを待ったあと、まだ残っている
 白血病細胞を死滅させるために再び化学療
 法を行いますが、それを寛解後療法といい、
 別名「地固め療法」とも呼んでいます。
  また、上記の治療法が奏功し、寛解の状
 態が続けば、その後に骨髄移植などを行う
 ことが出来るケースも多く、急性骨髄性白
 血病の治療はかつてと比べ、格段の進歩を
 遂げているといっても過言ではありません。

  それでは最後に、急性骨髄性白血病の仲
 間ではあるものの、ちょっと特殊な白血病
 についてお話ししておきましょう。
 それは、「急性前骨髄球性白血病(APL)
 と呼ばれるもので、急性骨髄性白血病のお
 よそ10%を占めています。以前は、発症
 すると急激に悪化してDIC(播種性血管
 内凝固症候群)という状態を誘発し、脳や
 肺や腎臓など多臓器で出血症状を起こすた
 め、早期の死亡率が非常に高い疾患として
 恐れられていました。しかし近年になり、
 レチノイン酸という薬剤を用いた分化誘導
 療法が行われるようになり、現在では極め
 て治療成績のいい白血病へと変化したので
 す。
  これは、医療の歴史においても特筆に値
 する出来事だと言えるでしょう。




















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