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■ 第170回 健康診断を活かす ■
~白血病と闘う その3~

医師 小澁 陽司
     

             
 白血病が「血液のがん」と形容されてい
ることは、前回の当コラムの最後で触れま
した。

 骨髄の中で白血球や赤血球を作り出す造
血幹細胞が腫瘍細胞(=白血病細胞)に変
化し、胃がんなどの固形がんと同様、無制
限に増殖を始めることで発症するため、白
血病はがんの範疇にカテゴライズされてい
るのです。

 正常な骨髄では、造血幹細胞が細胞分裂
を繰り返して各種の血球を常に産生してお
り、これを「分化」と呼んでいます。
 この造血幹細胞は「骨髄系幹細胞」と
「リンパ系幹細胞」の2つに大きくに分け
られていて、骨髄系幹細胞が分化すると、
赤血球の元になる赤芽球や、白血球に属す
る顆粒球と単球、そして血小板が作られま
す。
 それに対し、もう一方のリンパ系幹細胞
が分化すると、リンパ球の一種であるTリ
ンパ球、Bリンパ球、NK細胞(ナチュラ
ルキラー細胞)などが産生されます。

 私たち医師が白血病を分類する時は、ま
ずこの2系統に分けて考えるところから始
まるのです。
 つまり、白血病細胞が骨髄系幹細胞に由
来するものか、それともリンパ系幹細胞に
由来するものなのか、という点を鑑別して
いくことになります。
 前者を「骨髄性白血病」、後者を「リン
パ性白血病」と呼んでいますが、これは案
外簡単に理解出来るでしょう。
 しかしさらに、もうひとつ重要な分類が
あり、こちらの概念を理解するには少々時
間が必要かもしれません。
 それは、「急性白血病」と「慢性白血病」
との違いです。

 医療における一般的な概念として、イン
フルエンザウイルス感染症のような高熱や
関節痛といった症状が急激に出現する場合
を急性疾患と表現し、徐々に発症して緩慢
に経過する糖尿病などのような病気を慢性
疾患と呼んでいることはお分かりですね。
 しかし白血病の場合には、骨髄の中で未
熟な幹細胞が白血病細胞化し、それ以上成
長をしない状態のまま無限に増殖を始める
ことを「急性」と表現するのです。
 骨髄内で成長した各種の血球は、正常な
状況であればそれぞれの役目を果たすため、
やがて血液中へとデビューしていくのです
が、その成長の途中において造血幹細胞の
分化が止まって白血病細胞化し白血病にな
るケースと、逆に白血病細胞の分化は続き、
血球も成熟して見た目にはちゃんとした白
血球を作っていくものの、役に立たない白
血球を大量に産生するタイプの白血病に分
かれます。
 前者のパターンが急性白血病、後者のパ
ターンが慢性白血病と呼ばれており、一般
的な病気と同じような急性と慢性の概念で
白血病を考えると、全く理解出来ないこと
に驚かされてしまうのではありませんか?

 この「骨髄性」、「リンパ性」、そして
「急性」、「慢性」を組み合わせると、白
血病は大きく4つに分けられ、すなわちそ
れが、「急性骨髄性白血病」、「慢性骨髄
性白血病」、「急性リンパ性白血病」、
「慢性リンパ性白血病」となります。

 これら4つを基礎として、白血病をさら
に細かく分けるために「WHO分類」や
「FAB分類」と呼ばれる分類法が用いら
れ、臨床において診断や治療が実践されて
います。これは、白血病の分類がいかに難
しく、試行錯誤を経て現在の分類法が成立
してきたという経緯を物語っておりますが、
同時に、白血病全体を見渡すとあまりにも
多種多様な仲間(類縁疾患)が存在すると
いうことの証拠にもなるのです。
 つまり、このまま白血病のすべてをご説
明していくと、ただでさえ見慣れぬ固有名
詞が目白押しであるというのに、さらに皆
様の頭の中が混乱しかねません。
 そこで本稿では、お読み頂く皆様にとっ
て解りやすいという点を優先し、ある程度
簡略化してお話を進めていくことを前提と
して、次号からその4種類の白血病をそれ
ぞれ説明していきたいと思います。


















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