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■ 第165回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その111〜

医師 小澁 陽司
     

             
   4.腫瘍性膵嚢胞
  
  「嚢胞(のうほう)」とは、内部に液体が
  貯留した袋状(球状)の構造物で、肝臓や
  腎臓にも発生しますが、その多くは人畜無
  害な存在であるため、健康診断や人間ドッ
  クの腹部超音波検査で発見されても、大抵
  の場合、「放置可能」という最終判定が下
  される所見です。 
   しかし膵臓においては、「腫瘍性膵嚢胞」
  と「非腫瘍性膵嚢胞」に分けられ、嚢胞そ
  のものを構成する成分が腫瘍細胞である腫
  瘍性膵嚢胞の場合、悪性化する可能性があ
  ることから注意を必要とします。
   腫瘍性嚢胞は膵嚢胞全体の70%を占め
  るという統計もあり、膵臓がんに次いで経
  過観察が必要な疾患であると言えるのです。
   それでは、その腫瘍性膵嚢胞を分類し、
  以下に列記していきましょう。
  
  
   @膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):
  IPMNは腫瘍性膵嚢胞の中で頻度が最も
  高く、重要な疾患として位置付けられてい
  る腫瘍です。嚢胞の内部で粘液を産生する
  ため、少々難解なこの名称が付けられまし
  た。
    多くの場合無症状で経過し、人間ドック
   などの超音波検査で偶然発見されますが、
   最初は良性であっても緩徐に進行した結果、
   ついには悪性化することがあるため定期的
   な経過観察は怠れません。
   その中でも、「主膵管型IPMN」と呼
  ばれるタイプはがん化する頻度がやや高い
  ので、膵臓がんと同様にMRI検査などを
  用いた的確な診断が必要になります。その
  他、「分枝型IPMN」というタイプも存
  在し、悪性化の頻度は低いものの腫瘍が大
  きくなるとがんになるケースが多いことで
  知られています。また、主膵管型と分枝型
  が混在した「混合型IPMN」もあり、こ
  れらの疾患に対してはいずれも手術による
  切除が最も確実な治療法であるため、その
  タイミングを見極めるのに行う腹部エコー
  検査やMRI検査といった経過観察目的の
  検査は必須なのです(出来れば1年に1回
  が理想)。


   A粘液性嚢胞腫瘍(MCN):中年の女
  性に多く発生することが特徴で、やはり無
  症状で進行します。前項のIPMNとよく
  似た疾患であり、嚢胞の内部に粘液を貯留
  している点も同じです。しかし、IPMN
  よりも発症頻度は低いもののこちらの方が
  悪性化する確率が高いとされており、もし
  MCNと診断された場合は積極的に手術で
  切除することが推奨されています。


   B漿液性嚢胞腫瘍(SCN):この腫瘍
  は嚢胞内に粘液を産生しないタイプのもの
  で、悪性化は極めて稀とされています。診
  断されても経過観察だけで充分です。


   5.膵臓神経内分泌腫瘍(NET)
  
   膵臓の内分泌機能を司るランゲルハンス
  島に由来する腫瘍のことで、腫瘍がホルモ
  ンを勝手に分泌し、それによる症状がある
  場合は「機能性腫瘍」と呼ばれ、ホルモン
  分泌しないものを「非機能性腫瘍」と呼ん
  で分類しています。比較的稀な疾患ですが、
  最近はやや増加傾向にあることが分かって
  きました。
   代表的なものは「インスリノーマ」。こ
  の腫瘍はインスリンを過剰分泌するため、
  低血糖および意識障害が主な症状になりま
  す。
   「ガストリノーマ」は、胃酸の分泌を促
  進するガストリンというホルモンを過剰に
  産生するため、難治性の胃・十二指腸潰瘍
  を呈することが特徴です。
   その他にも、グルカゴンが多くなるため
  高血糖をきたす「グルカゴノーマ」や、下
  痢や皮膚の紅潮などが特徴的な「カルチノ
  イド症候群」といった疾患がこの腫瘍の仲
  間に含まれます。
   膵臓神経内分泌腫瘍は遠隔転移をする症
  例も多く、想像以上に悪性度が高いため、
  手術による摘除が治療の第一選択となって
  います。

   以上、2回にわたり代表的な膵臓の腫瘍
  をいくつか挙げて説明してまいりましたが、
  これらの中で最も注意が必要なのはやはり
  膵臓がんであることを、皆様にも充分にご
  理解頂けたのではないでしょうか。
   2018年5月、京都大学iPS細胞研
  究所や東京大学医科学研究所などの研究チ
  ームが、iPS細胞を応用した実験で膵臓
  がんの発症する機序の一部を解明したと発
  表しました。今後も研究が進めば、膵臓が
  んの発症自体を予防出来る可能性もあると
  のことで、これは大いに勇気付けられるお
  話だと言えるでしょう。
   現在、医療は長足の進歩を遂げています。
   こういった研究の積み重ねにより、将来
  的に様々な膵臓の疾患が根絶されることを
  願ってやみません。













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