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■ 第162回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その108~

医師 小澁 陽司
     

             
  今号は、急性膵炎についてのお話の最終回です。


  急性膵炎を疑わせる症状の患者さんが医療機関を受診された際、私たち医師が
 その確証を得るためには、厚生労働省によって定められた「急性膵炎の臨床診断
 基準」に従って確定診断を進めていかなければなりません。
 
  その基準とは、以下の3つになります。

  ①上腹部に急性腹痛発作と圧痛(手でお腹を押した時、さらに強くなる痛み) 
   がある。 
  ②血液中または尿中に、膵臓から出る酵素の数値上昇がある。
  ③腹部エコー検査、腹部CT検査または腹部MRI検査で、膵臓に急性膵炎を
   示す異常所見がある。


  この3項目のうち2項目以上が当てはまり、他の膵臓疾患および急性腹症を否
 定できた場合、初めて急性膵炎という診断が付けられるのです。
 
  ちなみに急性腹症とは、手術が必要かどうかをすぐに判断しなければならない
 ほどの急激な腹痛を起こす疾患の総称のことで、例えば腸閉塞、腸重積、消化管
 穿孔(消化管に穴が開くこと)、子宮外妊娠の破裂などが相当します。


  さて診断基準の①は、どなたにでも分かりやすい症状と言えるでしょう。

  では、②はいかがですか?
  前回までの解説を思い出して頂ければきっとお分かりになると思いますが、こ
 の「膵臓から出る酵素」とは、急性膵炎を引き起こす主役である膵液に含まれる
 「アミラーゼ」や「リパーゼ」といった消化酵素を指しています。
 
 現在、最も有用な指標となっているのは血液中や尿中でのリパーゼ値の上昇を測
 定することで、もう一方のアミラーゼ(膵臓から分泌されるタイプであるP型ア
 ミラーゼ)値の上昇と組み合わせて確定診断を付けていくのが一般的です。


  そして、最後の基準である③は画像検査となりますが、ようやくこの稿の原点
 に立ち返り(もはや皆様お忘れかもしれませんが、現在の本コラムは『腹部エコ
 ー検査所見』について解説するシリーズなのです!)、急性膵炎を診断する際の
 腹部エコー検査の所見をご説明いたしましょう。
 
 
  エコー検査はその簡便性および安全性ゆえ、急性膵炎が疑われる患者さんの全
 員に対してまず初めに行うべきである検査と考えられており、代表的な所見とし
 ては膵臓の腫大(むくみ)、膵臓の周囲に起こる炎症性変化などのほか、急性膵
 炎発症の一因となる胆石を発見できることがあります。
 
 また、前号でご説明したように、胆石が胆嚢から胆管内へ転がり落ちてオッディ
 括約筋のところで詰まってしまうと、その手前にある膵管と胆管が閉塞するため、
 十二指腸に放出されず行き場を失った膵液や胆汁が停滞して総胆管が拡張してし
 まうといった所見を観察することもできるのです。
  
  
  もちろん、腹腔内に腸管ガスがたくさん存在する場合には(急性膵炎では腸の
 動きが弱まるので、ガスが溜まりやすくなる)、それが邪魔になりエコー検査だ
 けだとはっきりした所見が得られません。

  
  そこで必要となるのが、腹部CT検査や腹部MRI検査です。特に造影CT検 
 査は、膵炎の重症度などに関する明解な情報が得られるため積極的に行うことが
 推奨されています。


  それでは、3回にわたってお送りした解説の締めくくりとして、急性膵炎の治
 療法を述べていきましょう。


  急性膵炎の治療は原則的に入院して頂いた上で行いますが、軽症から中等症で 
 ある場合はまず飲食を禁止し、輸液や胃薬の投与をしながら様子を見ます。やが
 て、膵臓のむくみがなくなったことを確認した時点で食事を開始して、順調にい
 けば2週間ほどで退院となります。


  しかし、中等症でも状態の悪い場合や重症であると診断された場合には厳格な
 全身管理が必須です。特に、ショック状態(血圧の低下など)を呈している時な
 どは集中治療室での治療が必要となることもあり、決して油断はできません。
 
 この場合は重症度に応じて蛋白分解酵素阻害剤を使用したり、抗生物質を投与し
 て内科的治療を行うほか、必要ならば外科的手術も考慮されます。

 
  また、胆石の詰まりが原因となる症例では内視鏡を使って胆石を除去すること
 もあり、症例ごとに多岐にわたる治療法が選択されるのです。


  最後の最後に改めて申し上げますが、急性膵炎の原因の多くはアルコール多飲
 と胆石ですので、男女ともに飲み過ぎ食べ過ぎを控え、肥満を解消するような健
 康的な生活をお送り頂き、ぜひ急性膵炎からご自分の体をお守り下さい。










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