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■ 第161回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その107~

医師 小澁 陽司
     

             
  今月も急性膵炎のお話を続けます。

  膵臓で産生される消化液の「膵液」が、何らかの理由で十二指腸へ放出されず
 膵臓内に逆流して残ってしまうため、膵臓自身が消化されて溶けてしまう(これ
 を『自己消化』といいます)病態を急性膵炎と呼ぶことは前回ご説明しました。
 
  しかしそれならば、なぜ膵液が産生された瞬間からすぐに膵臓を溶かし始めな
 いのか、不思議には思いませんか?
  
  その理由は、膵臓内で産生されたばかりの膵液はまだ食物を消化する力を持っ
 ておらず、膵管を通り十二指腸の中に分泌されたあとに活性化されて初めて消化
 能力を獲得するからなのです。
 
 
  膵管が十二指腸内に膵液を分泌するその放出口には、「オッディ括約筋」と呼
 ばれる筋肉で出来た輪状の門が付いており、普段はこの門が固く閉まっているた
 め、膵液がのべつまくなしに十二指腸へ流出するのを防いでくれています。
 
 これは、お尻の穴にある肛門括約筋が排便のコントロールを担っていて、便が常
 に肛門から垂れ流しの状態にならないようにしているのと同じ構造だと考えれば
 分かりやすいでしょう。
 
 
  このオッディ括約筋に何か異物が詰まって閉塞したり、括約筋がうまく開閉し
 なくなってしまうと、消化能力を獲得した膵液が膵臓内に逆流して停滞し、やが
 て自己消化を起こして急性膵炎を惹起することになるのですが、それらの2大原
 因として知られているのが「胆石」と「アルコールの長期大量摂取」です。
 
 
  胆嚢などで作られる胆石がふとしたはずみで胆管内に落下してしまった場合、
 石は膵管と胆管の合流部にあるオッディ括約筋まで転がり落ちていきます。先述
 の通り、オッディ括約筋は十二指腸内腔との境にある門ですから、そのまま門を
 通過して腸内に落ちれば事なきを得るのですが、もしもオッディ括約筋で胆石が
 引っ掛かりそこで詰まってしまうと、必然的に膵管と胆管は「閉塞」し、十二指
 腸へ流れ出るはずの膵液が逆流して膵臓内で停滞することになるわけです。
 
 
  一方、アルコールを長期にわたって大量摂取している方の場合は、日頃からア
 ルコールの刺激により膵液が多めに分泌されていることに加え、オッディ括約筋
 が痙攣(けいれん)を起こしやすい状態になっているため膵液が通過しにくくな
 り、それが膵臓内へ逆流して急性膵炎が発症すると考えられています。
 
 しかし、アルコールが急性膵炎の発症に与える影響はその他にも諸説あって、未
 だにはっきりした機序は解明されていません。

 
  統計上、急性膵炎の原因において最多のものはアルコール性で、その次に多い
 のが胆石です。アルコール性が原因の急性膵炎は肥満の男性に多いため、日常的 
 にアルコールを多飲していて、なおかつ脂っこい料理を好む肥満した男性が急に
 腹痛を起こす症例では、急性膵炎を念頭に置いて診察する必要があります。
 

  また反対に、胆石が原因となるケースは女性の方が多いことで有名です。余談
 ながら、胆石が発生しやすい方の特徴として、医療関係者の間では以前から「5
 F」という表現が使われてきました。
 
 5Fとは即ち、「Forty(40歳代)」、「Female(女性)」、「F
 atty(肥満)」、「Fair(白人)」、「Fertile(多産婦)」の
 頭文字で、このことからも、胆石を原因とする急性膵炎が女性に多く発症すると
 いう事実をご理解頂けると思います。

 
  さらに急性膵炎の原因として知られているのは、降圧剤などの薬剤によるもの
 やウイルス感染症、内視鏡を使用した膵臓検査による膵臓の損傷、膵臓がん、中
 性脂肪が高値の方、遺伝的要素など多岐にわたりますが、その他に特筆すべきな
 のは原因不明(特発性)の症例が案外多く、全体の25%を占めるという統計ま
 であるという点です。

 
  突然腹痛が出現した時は決して我慢をせず、すぐに医療機関を受診して、急性
 膵炎を含む「急性腹症」の鑑別診断をお受けになる必要があることは、これで明
 白でしょう。


  さて、前回・今回と急性膵炎についてこれだけ綴ってきても、お伝えしなけれ
 ばならないことはまだまだたくさん残っています。
  続きはまた次号に!










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