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■ 第160回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その106〜

医師 小澁 陽司
     

             
  いよいよ今回から、膵臓に発生する疾患とそのエコー所見についての解説を始
 めることにいたします。これから半年間ほどの長丁場ですが、どうぞ飽くことな
 くお付き合いください。


  1.急性膵炎:人間が罹患する数多くの疾患の中で、「強烈な痛みに襲われる
 病気」というのは考えるだけで恐ろしくなり、出来れば経験したくないと思うの
 は筆者だけではないはずです。
 
  そんな強烈な痛みを伴う疾患の代表的なものといえば、真っ先にくも膜下出血
 や心筋梗塞などを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、極め
 て強い腹痛が主訴となる病気のひとつに、「急性膵炎」があることは意外と知ら 
 れていないのではないでしょうか。

 
  急性膵炎は、発症した患者さんのほとんどに上腹部痛(特にみぞおちの痛み)
 が起こり、症状が進行すると腹部全体から背中にまで抜けるような激痛となる場
 合もあるため、なるべく早期に診断を付け、すぐに治療を開始したい疾患です。
 
 しかし、初期症状が「鈍い胃痛」程度のことも多く、医療機関を受診せずご自宅
 で様子を見てしまうために、症状が悪化してからご受診されるケースも少なくあ
 りません。
  
  これは実例ですが、筆者の友人の男性が数年前に急性膵炎を発症した時の経過
 があまりにも典型的でしたので、以下にご紹介しましょう。


  最初、軽い上腹部痛を自覚した彼は、(胃のあたりに鈍痛があるなあ・・・)
 とだけ思い、病院にも行かず半日ほど放置していました。そして夕食になり、奥
 様の手料理のすき焼きを食べながらビールを飲んだあと、このまま寝たら痛みは
 治るかもしれないと考えて無理矢理寝たのですが、翌朝になっても痛みが改善し
 なかったため病院に行って検査を受けたところ、急性膵炎だと判明してびっくり
 したそうです。
 
  その友人は幸いにも軽症のうちに治療を行うことが出来たので、先述したよう
 な激痛こそ体験しなかったものの、急性膵炎は一歩間違えれば長期入院も必要な
 状況に陥ることがある疾患ですから、いかに軽い腹痛といえども高を括ってはい
 けないことがよく解ります。
 
 
  実はこの友人の話にはとても重要なキーワードが含まれているのですが、皆様
 は何となくお気付きになりましたか?
  それは、「ビール」。
  いや、もう少し広い範囲で言うならば「お酒」です。
  
  急性膵炎になる原因の多くはアルコールの多飲、次いで胆石の影響であること
 が知られています。その発症機序を理解して頂くためには、急性膵炎がどんな病
 気であるかをまずご説明しなければいけません。
 
  そもそも急性膵炎とは、膵臓で産生されている「膵液」という消化液が(膵液
 については前号で詳述しておりますので、再度ご参照下さい)、本来は十二指腸
 の中に放出されなければいけないはずなのに、何らかの理由でうまく放出されず
 に膵臓内に残ってしまった結果、自分の作り出したその膵液によって膵臓自身が
 消化されてしまうという、にわかには信じられないような病態を持つ疾患です。

  もっとも、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などは、強い酸である胃酸が自分を産生して
 くれた胃壁を自ら消化してしまうために起きるのですから、人間の体内において
 同じようなことがあちこちで発生していても決して不思議ではありません。

  胃および十二指腸潰瘍も軽い痛みから激痛まで様々なレベルの痛みを伴います
 が、潰瘍にせよ急性膵炎にせよ、自分で自分の体を消化する病気というのは相当 
 に痛いものなのだと、改めて妙に納得してしまいます。
 
 
  さて、色々なところに話を飛躍させつつ執筆を進めていたら、今回はこれにて
 紙面が尽きました。急性膵炎のお話の続きは、また次号といたしましょう。









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