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■ 第151回 健康診断を活かす ■
〜病原性大腸菌O157の脅威〜

医師 小澁 陽司
     


 10月も近くなり、筆者の住むここ東京では、涼しい風を感じることのできる
日がずいぶん多くなってまいりました。

 そんな、ようやく過ごしやすくなってきた気候の中で、連日のように報道され
ている食中毒の話題は先刻ご承知でしょう。

 例年、秋を迎えると高温多湿の環境下で発生しやすい細菌性食中毒(腸炎ビブ
リオやサルモネラ、あるいはカンピロバクターなどが代表的な原因菌)の流行は
減り、その代わりにウイルス性の食中毒(ノロウイルスやロタウイルス感染症な
ど)の件数が増加してきます。

 しかし、秋になった今もなお深刻な状況を呈し続けているのが、「O157」
(おーいちごなな)という名前の大腸菌を原因とする、細菌性食中毒の集団発生
問題です。

 本年8月上旬、群馬県や埼玉県の惣菜店で購入した惣菜を食べた方々が集団で
O157に感染し、ついに女児の死亡という痛ましい事態にまで発展してしまっ
た一連の出来事は、その地域だけの問題に留まらず、上記の惣菜に入っていたの
と同じ遺伝子型(同じ一族という意味)を持つO157に感染した人が全国規模
で出現したことにより、さらに複雑な様相を見せ始めました。

 本稿を執筆している時点では、これと同じ遺伝子型のO157に感染している
と判明した方が全国に80人以上はいるとの報道もあって、もし今後その数が増
えていくとすれば、感染経路の特定がより一層困難になるかもしれません。

 このO157は、私たちの大腸の中に常住している無害な大腸菌と違って強い
感染力を持ち、なおかつ感染しても潜伏期間が長い(最長10日ほど)ため、知
らず知らずのうちに人から人へ伝播してしまっている上、一旦発症すると激烈な
消化器症状を呈することから、一般的な大腸菌と区別して「病原性大腸菌」と呼
ばれています。

 ちなみに名前の由来は単純で、大腸菌の表面に付いている抗原という物質を大
別すると「O抗原」と「H抗原」の2つに分けられるのですが、O157はO抗
原を持った大腸菌として157番目に発見された菌であったため、そのまま命名
されたに過ぎません。

 この菌が我が国で一躍脚光を浴びたのは、1996年に起きた大阪府堺市のO
157集団感染事件です。

当初、感染源はカイワレ大根だと発表され、のちに冤罪であることが判明しまし
たが、当時の厚生大臣が風評被害を打ち消すために生のカイワレ大根を食べると
いうパフォーマンスを行ったことも含め、大きな社会問題となったのは記憶に新
しいでしょう。

 O157が今も昔も恐れられている理由のひとつとして、「ベロ毒素」という
名前の強力な毒素を産生することが挙げられます。病原性大腸菌にはいくつかの
種類があって、O157はその中の腸管出血性大腸菌に含まれますが、ベロ毒素
が大腸内で産生されると、やがて激しい腹痛、下痢、血便といった症状が起こり
ます。

またその後、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症が起こる
こともあり、これらに罹患するとご高齢の方や小さなお子さんは死に至るケース
もあるため、感染が判明した場合には充分な注意が必要なのです。

今回、女児が亡くなられた原因は現時点で公表されていませんが、合併症が原因
である可能性も否定はできません。

 不定期的に集団発生が起こり、尊い命が失われるほど危険なO157感染症で
すが、それでは普段、私たちがこの菌の脅威から身を守るためにはどのようなこ
とに気を付ければよいのでしょう。

 まず、O157は通常の場合、牛などの家畜の大腸内に生息しています。つま
り、家畜の糞便とともに体外に排出されるため、その糞便に汚染された水や食べ
物を介して人間の口に入ってくる危険性があるわけです。

従って、加熱が不十分な食肉(あるいは生肉)の摂取には充分な注意が必要で、
特に免疫力の弱いご高齢者や小さなお子さんに食べさせるのは控えたほうがいい
ということになります。

また、堆肥で育てた野菜をよく洗わずに生で摂取すると、それだけで感染してし
まう可能性があることを念頭に置き、サラダ類を作る際は清潔な水での洗浄を怠
らないようにしましょう。

 また、O157は熱に弱いため、菌が付着した食べ物でも75℃で1分間以上
加熱すれば死滅すると言われています。O157が流行している時期は特に注意
し、なるべく加熱調理したものを、長期間保存せず早めに食べるようにしてくだ
さい。そして、調理器具や食器類の消毒もお忘れなく。

 最後に、O157に感染した人の便などからの感染を防ぐため、外出を終え自
宅に帰ってきた時や公共の施設(特にトイレ)を利用した際は、こまめな手洗い、
うがいなどを忘れずに行うことが肝心です。

そしてもし万が一、ご家族に感染された方が出た場合、家庭内での蔓延を防ぐた
めにトイレ、水回りの消毒を徹底するのはもちろんのこと、自分自身も感染した
かもしれないという自覚がある場合は、軽微な症状のうちに必ず医療機関を受診
して頂きたいと思います。





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