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■ 第148回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その99〜

医師 小澁 陽司
     


今回からまた、「腹部エコー検査所見・腎臓編」のご説明を再開したいと思います。

F遊走腎:筆者が主治医を務めている患者さんはもとより、私どもの医療機関に
おいて健康診断およびドックをお受け頂いた方の中で、尿潜血反応が陽性となる
方は案外たくさんいらっしゃいます。

 この尿潜血反応とは、肉眼ではっきりと赤くは見えないものの、採取した尿の
中に検査テープを浸すと血液が混じっている反応が出ることを意味し、尿検査で
そのような結果が出た方にお話を伺うと、

「昔から尿潜血反応は必ず陽性になるのですが、精査をしてくれた医師からは特
に問題ないと今まで言われてきました」

とおっしゃることがよくあるのです。

 もちろん、尿潜血反応が陽性になる原因がはっきりしている場合も多々あり、
例えば腎臓や尿管に結石がある、腎炎や膀胱炎に罹患している、そして尿路系の
どこかにがんがある(腎臓がん、尿管がん、膀胱がんなど)といった理由を挙げ
ることが出来ますが、これらの疾患では潜血尿のみならず、「肉眼的血尿」と呼
ばれる、血で赤く色が付いた尿も出現するケースや、さらに疼痛など他の症状も
伴うことが多いため、何はともあれ原疾患の治療を速やかに行う必要があるで
しょう。

 しかし、長年放置しているにもかかわらず、ほとんど心配がない潜血尿という
のも先述のように意外と多く認められ、その原因の代表格のひとつとして知られ
ているのが、今回のテーマである「遊走腎」です。

 遊走腎という名称は、皆様にとってなかなか聞き慣れないかもしれません。 
しかも、「腎が遊走する」などと聞くと、体内をぐるぐると腎臓が動き回ってい
る様子をイメージされるかと思いますが、そこまで大げさなことが起きているわ
けではないのです。

 遊走腎とは、体内にある腎臓が、横になって寝ている時の所定の位置と比べて、
体を起こして立った時に10cm近く下に降りてきてしまう現象を指します。

いわば内臓下垂の一種で、「腎下垂」とも呼ばれますが、その原因は先天性のも
のと後天的なものに分けられます。

 先天的な要素としては、本来、腎臓の周りに存在して腎臓を一定の位置に保っ
てくれるはずの脂肪組織や筋膜などが生まれつき弱く、腎臓を支えきれないため
に下垂してしまうというもの。 

 そして後天的な要素として、上述した腎臓の周囲の組織が加齢と共に徐々に弱
ってきてしまうことに加え、腹筋などの筋肉が緩んでしまうために腎の下垂が起
こってくることが知られています。

 また、遊走腎はもともと脂肪組織が少なく、筋肉のない痩せた女性に多く認め
られるのが特徴のひとつであり、その原因と照らし合わせれば納得のいく話であ
ると言えましょう。

 診断を付けるためには、尿路造影という方法を用います。静脈注射した造影剤
が腎臓に流れるタイミングを見計らい、寝ている時と立った時の両方の腹部レン
トゲンを撮影して見比べ、立って撮影した時に腎臓が10cmほど下垂している
かどうかを確認することによって、遊走腎と診断するのです。

 遊走腎の症状は多くの場合、顕著なものがありません。腎臓が下垂することに
より腎とつながる血管が引っ張られ、そこから少し出血して尿中に血液が混じっ
てしまうために尿潜血反応が陽性と出たり(稀に肉眼的血尿もありますが)、尿
蛋白が陽性になったりする程度です。

 将来的に腎機能障害や腎不全といった、重い腎臓疾患に移行することはほとん
どありません。

だからこそ、大抵の方は何の問題もなく長年にわたり放置していられるというこ
とになります。

ただし例外はあって、腹痛・吐き気などの消化器症状や腰痛を訴えたりする方も
いらっしゃいますが、それとて治療が必要なほど重症化するのは稀なのです。

 実際、遊走腎の治療として、手術などの観血的治療はよほどの難治症例以外に
ほぼ行われることはなく、筋力を付けるような運動療法・理学療法が主体である
ことを考えると、たとえ軽症の遊走腎と診断されたとしても、日々の生活の中に
少しずつ運動を取り入れ、食生活にも気を付けて健康的な人生を送るための見張
り番であるというくらいに認識していれば、ずいぶん気が楽かもしれません。




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