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■ 第145回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その98〜

医師 小澁 陽司
     

 
E腎盂拡張と水腎症

 まず初めに、皆様は「腎盂腎炎」という病名をご存じでしょうか。
 
 一度でもこの疾患を経験された方なら、腎盂という字の読み方が「じんう」であ
ることはお分かりだと思います。

 腎盂腎炎(主として急性腎盂腎炎)は、腎臓の一部分である腎盂に細菌が感染し、
腎臓が炎症を起こしてしまうため高熱や背部痛などの症状を認める病気なのですが、
それでは一体、この腎盂は腎臓のどこにあると思いますか?
 
 前号でも少し触れたように、腎盂は腎臓で作られた尿を一時的に腎臓内に溜める
貯水槽のような場所です。その後、上腹部にある左右の腎臓と、下腹部にある膀胱
とをつなぐ水道管の役割を担った左右2本の尿管の中を、腎盂に溜められていた尿
は1個しかない膀胱へと流れて落ちていきます。

 尿の経路がこのような構造であることを考えると、腎盂は物理的に、左右の腎臓
の内側(体の中心である背骨の方向)かつ尿管の出発点に位置していなければなり
ません。

 ここで思い出して頂きたいのは、当コラムの第137回「B腎結石と尿管結石」
において詳しくご説明したお話です。

 腎臓内に出来た結石はその場で動かなければ特に問題ないのですが、何らかの理
由で尿管に転がり落ち、尿管結石となって尿の流れを堰き止めてしまうと、膀胱ま
で尿が到達出来なくなってしまいます。

 すると、逃げ場のなくなった尿は閉塞した部分から上の尿管を膨らませて、少し
でも尿が溜められるスペースを確保しようとするのです。

 そして尿管が拡張するのと同時に、その出発点であり尿の貯水槽である腎盂自体
も、当然のように尿の圧力で大きく拡張していきます。

 もうお分かりですね。これが「腎盂拡張」という現象です(また、腎盂の拡張に
加えて『腎杯』という部分も同時に拡張します)。

 さらに、腎盂拡張に伴って尿がどんどん貯留し、腎全体が大きくなってしまった、
いわば水浸しの状態の腎臓を「水腎症」と呼んでいます。これらを簡便に診断する
ための最も有用な検査法こそ、腹部エコー検査に他なりません。

 腹痛や背部痛が出現した際に、腹部エコー検査を行って腎臓で腎盂拡張所見が認
められた場合には、それだけで水腎症という診断を付けることが可能なのです。

これで腎盂拡張と水腎症が切っても切れない間柄にあることをご理解頂けたと思い
ますが、実は今号のポイントはここから先にあると言えるでしょう。

 腎盂拡張および水腎症を引き起こす原因疾患として、尿管結石が最も多いという
ことは間違いないのですが、他にも多岐にわたる原因が存在し、その中には生命を
脅かす怖い疾患も含まれているのです。

 それらの原因をいくつか挙げてみると、ひとつには先天的な疾患があります。先
天性の要素によって起こる水腎症の大多数は、幼少期に発見されるものが多く、腎
盂と尿管のつなぎ目の部分が狭くなっている「腎盂尿管移行部狭窄」や、尿管と膀
胱のつなぎ目が狭くなっている「尿管膀胱移行部狭窄」、あるいは「膀胱尿管逆流
症」(膀胱に溜まった尿が腎臓まで逆流する疾患)などが代表的なものとして知ら
れています。

 そして後天的な原因の中で、有名な尿管結石のほかに極めて重要なものとして忘
れてはいけないのが、腎盂や尿管、そして前立腺に発生した悪性腫瘍(大腸がんや
子宮がんなど、近くの臓器から直接転移するがんも含める)の一群です。

 初期症状を放置し発見が遅れてしまうと、腎盂および尿管がんは腎臓に近いとこ
ろで尿路を遮断してしまいますし、前立腺がんは下部尿路を閉塞させて水腎症を引
き起こします。

 また、前立腺肥大や神経因性膀胱といった良性の疾患が原因となることもあり、
いかに良性といえども油断してはいけません。

 いずれにせよ、水腎症はそれぞれの原因を早期に発見し、原疾患に対する治療を
行うことで改善が期待出来る病気です。
 
 是非、日頃からのご自分の体調変化にご留意頂き、気になる症状がある時は早め
に腹部エコー検査をお受け頂きたいと思います。



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