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■ 第144回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その97〜

医師 小澁 陽司
     

 さて今号は、久し振りに腹部エコー検査所見のお話に戻ります。

 今回で97回目となる「知っておきたい『健康診断の基礎知識』」シリーズです
が、途中でその時々の最新医療トピックスのご紹介や、我が国において増加傾向に
ある大事な疾患の説明などを適宜織り交ぜているため、数回連載したあといきなり
健康診断の話題から逸脱してしまう場合も多く、お読み頂く皆様に若干散漫な印象
を与えているかもしれません。

 その点につきましては平にご容赦を乞いつつ、半年前の第138回のコラム以来
となる「腎臓の腹部エコー検査所見」のご説明を、さりげなく再開したいと思いま
す。

 それでは今回のお題として、「腎嚢胞」という疾患を選ぶことにいたしましょう。


D腎嚢胞

 皆様の中には、「嚢胞」という所見名をすでにご存じの方も多いのではないでしょ
うか。

 健診や人間ドックの諸検査において、全身の色々な臓器に見つかる率の高い所見
であり、意外なほど身近な存在だと言えるからです。

 このコラムでも、肺嚢胞(第88回)や肝嚢胞(第125回)について詳述して
おりますので、今回細かい解説は避けますが、もう一度ごく簡単に説明すると、嚢
胞とは「様々な臓器に発生する、膜に包まれた袋状の構造物」のことを言います。

 腎臓に発生する嚢胞は、肺の嚢胞が時として気胸という状態を引き起こす危険性
を有しているのと違い、たとえ腹部エコー検査で偶然に発見されたとしても、肝臓
に出来る嚢胞と同じく「放置が可能」というレベルの無害な存在に過ぎません。

 具体的には、片方または左右両方の腎臓の中に1個ないしは多くても数個までし
か発生しない嚢胞を「単純性腎嚢胞」と呼び、このタイプが腎嚢胞全体の大部分を
占めています。

 これらは一生を通じて無症状で経過する場合がほとんどであり、また、嚢胞内部
には嚢胞液という害のない液体が入っているだけですので、将来的にそれが人体に
とって悪影響を及ぼすことは、ほぼ皆無であると言ってよいでしょう。

 ただし、稀ながらも例外はあって、単純性腎嚢胞でも巨大化すると背中の圧迫症
状が出現したり、発生場所が良くない場合(腎臓で作られた尿が集まる『腎盂』と
いう部位の近くに出来るケース)には尿路が圧迫されて水腎症を起こし、腰痛や腎
機能低下などが出現する場合もあります。

 このような状態に対しては、外科的治療を検討しなければなりません。
 
 また、本当に極めてレアなケースではありますが、腹部エコー検査において腎嚢
胞の壁が不整(でこぼこ)であったり、壁の中に石灰化(カルシウムの沈着)が認
められたりする時には、悪性腫瘍が合併している場合もありますので、もしそういっ
た指摘があれば念のために腹部C  Tなどの精密検査をお受け頂きたいと思います。

 しかし、基本的には無害である腎嚢胞と似たような名称の「多発性嚢胞腎」とい
う疾患になると、話がまったく違ってしまうので注意が必要です。

 厚生労働省によって難病指定を受けている多発性嚢胞腎は、両側の腎臓に嚢胞が
多発し、なおかつそれが進行していく遺伝性疾患で、嚢胞がどんどん大きくなるた
め腎臓の肥大を起こすことに加え、高血圧や腎機能障害、脳動脈瘤などを合併しや
すくなることが知られています。

 この疾患は多くの場合、30〜40歳代までは症状がありません。ある時突然、
腎嚢胞の中に感染や出血を起こすと、それが契機となって急激な腹痛および背部痛、
血尿などが出現し、腹部エコー検査などで初めて発見されます。

 遺伝性疾患であるため、家族歴を参照すれば容易に診断が付くのも特徴のひとつ
と言えましょう。

 本疾患には根本的な治療法がなく、このために国から難病指定を受けているわけ
ですが、現在、高血圧や脳動脈瘤などの合併症対策として血圧降下剤を使用すると
いった対症療法や、腎機能障害に対しる血液透析などが行なわれています。

 しかし最近では、嚢胞の増大に関与しているバソプレシンというホルモンを抑え
る効果のある薬も使われはじめており、今後の治療成績の向上が期待されていると
ころです。


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