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■ 第143回 健康診断を活かす ■
〜アメリカ大統領とその持病〜

医師 小澁 陽司
     

 今号のコラムを執筆している2017年1月20日現在、各メディアはオバマ大
統領に代わってもうすぐ新しいホワイトハウスの主となる、ドナルド・トランプ第
45代アメリカ大統領の就任式のニュースで持ちきりとなっています。

 皆様もご存じの通り、昨年11月に行われたアメリカ大統領選挙を勝ち抜いて当
選を果たしたトランプ新大統領ですが、正直なところ、今回の大統領選の結末には
驚かされた方のほうが多かったでしょう。

 選挙前までは優勢が伝えられていたヒラリー・クリントン候補。しかし、いざ蓋
を開けてみるとトランプ候補の圧勝という結果に終わりました。

 このアメリカ大統領選挙のシステム(選挙人制度など)が一筋縄ではいかないこ
とを私たちはあまり実感として持っていないため、一見するとトランプ候補の奇跡
的な大逆転劇として捉えてしまうわけですが、映画監督のマイケル・ムーア氏など
は以前から今回の帰結を精細に言い当てており、アメリカに暮らしてその国内の空
気を敏感に嗅ぎ取っていれば、決して予測不可能な事態ではなかったことが分かり
ます(このムーア氏の発信した内容の詳細については割愛しますが、ご興味のある
方は是非ネットで閲覧してみてください)。

 しかし、このたびの大統領選挙で筆者の興味を惹いたのは、クリントン候補の健
康問題が連日のように報道され、それが大騒ぎになったという点です。

 最終的な局面で健康不安がネックとなり、クリントン候補が落選に至ったわけで
はないと思いますが、アメリカという大国を率いる為政者と健康問題が無縁である
はずはありません。

 実際、一時は重病説まで流れたクリントン候補に対し、(少なくとも公衆の面前
において)健康不安を感じさせなかったトランプ候補が、今大統領選の勝利の栄冠
を手にしているのです。

 ところが、歴代のアメリカ大統領のうち、重篤な病気に悩まされながらも重責を
果たした人が存在することをご存じでしょうか。

 病気と闘いながら大統領としての激務を続けることの大変さは、筆舌に尽くしが
たいものがあったと思います。

 そこで今回は、著名なアメリカ大統領を苦しめた病気について、現在明らかになっ
ているエピソードを交えながら、いくつかの例をお話しいたしましょう。


 まずは、第32代のフランクリン・ルーズベルト大統領です。

 第二次世界大戦中のアメリカを主導し、連合軍に勝利をもたらした中心人物とし
て有名なルーズベルト大統領は、39歳の時にウイルス感染が原因で起こるポリオ
(急性灰白髄炎:口から感染したポリオウイルスが脊髄の中に入り込んで炎症を起
こし、主として手足に麻痺が残ってしまう病気)に罹患したため下半身麻痺となり、
車椅子で執務を行っていました。

 ただし最近の研究によると実はポリオではなく、同じくウイルス感染が契機となっ
て起こるギラン・バレー症候群(多発性の神経炎により筋肉が麻痺する病気)であっ
たという可能性も示唆されています。

 それに加え、ルーズベルト大統領には重症の高血圧もありました。

 当時は高血圧に対する有効な治療法が確立しておらず、ほとんど治療らしい治療
を受けることなく激務を遂行し続けた結果、第二次世界大戦の終結直前に突然脳出
血を起こし、大統領は急逝しました。

 亡くなる前の血圧は、上が300で下も200近くあったといいます。


 そして続いてはお馴染み、第35代のジョン・F・ケネディ大統領。

 若々しく歯切れのいい演説が、1960年代という新しい時代を生きる国民の熱
狂的支持を得たこと、核戦争になる可能性があった「キューバ危機」を寸前で回避
したこと、そして鮮烈な暗殺の光景が未だに脳裡から離れないことなどで、様々な
意味において今もアメリカを象徴し続けているケネディ大統領には、アジソン病
(慢性原発性副腎皮質機能低下症)という持病がありました。

 これは、副腎という臓器で作られる副腎皮質ステロイドの分泌が少なくなるため、
全身倦怠感、易疲労感、食欲不振および体重減少、低血圧、吐き気、下痢といった
身体症状に加え、抑うつ状態や無気力などの精神症状に至るまで、多彩な病態を示
す病気です。

 ケネディ大統領の場合は、人工的に開発された合成ステロイド剤の補充療法を行
うことで元気を取り戻し、活発な政治活動を継続することが出来たのですが、その
反面、ステロイド剤の長期投与の副作用である骨粗鬆症も進行しており、常に腰痛
や背部痛に苦しめられていたことも知られています。


 このように、超大国の大統領には健康問題をはじめあらゆる苦労が絶えませんが、
ご自身の健康問題よりも政策問題の方が不安視されているトランプ新大統領の今後
のお手並みを、まずはじっくりと拝見しようではありませんか。


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