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■ 第135回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その93〜

医師 小澁 陽司
     

B腎結石と尿管結石

 今回は遥か昔、30数年前の筆者の実体験談から始めましょう。

 当時、医学部進学を目指していた高校生の筆者は、同じく大学受験のため共闘し
ていた仲間たちと週に1回、自宅からほど近い英語専門塾に通っていました。

 いつもお世話になっている先生にお中元を直接お届けするため、筆者の母が筆者
と共にその英語塾を訪れたのは、7月半ばのひどく蒸し暑い夜だったと思います。
 我々親子が英語塾に到着すると、奥から現れた講師の先生は、その頃50歳前後
だったでしょうか。
 アメリカで長く英語の勉強をされ、いつもダンディな雰囲気を身にまとった紳士
的な方でした。

 しかし、その日の先生はいつもと様子が違ったのです。
 我々親子と挨拶を交わしながらも、左の腰を手で押さえ、何とも落ち着きがない
様子で応接室に招じ入れてくださいました。
 そして、明らかな作り笑顔でお中元のお礼をされたあと、筆者の勉強の進捗状況
を母に報告し始めたのですが、先生は椅子に座ったまま常に上半身を左右に揺らし、
時々うめき声を上げながら辛そうな表情を見せているのです。

 「先生、どうなさいました?どこかお加減でもお悪いのですか?」
 先生のあまりにも辛そうな様子に、母はたまりかねて先生の話を遮り、思わず声
を掛けました。

 すると先生は、
「ええ、実はちょっと前から、急に左の背中と腰が痛くなってきたので困っている
んですよ。こんなこと、初めてなものですから…」
と、もはや笑顔も作れず、悲痛な表情でそう訴えたのです。

 先生は常日頃から、英語の講義やご自分の勉強に熱中されると、食事はおろか水
分さえもきちんと摂らずに長時間過ごされるような方でした。
 蒸し暑い夏の日に脱水状態が続くと、肉体には様々な不具合が起こります。
 その代表的なものは、当コラムの第113回と114回でご説明した「熱中症」
ですが、医師となった今振り返ってみると、この時、先生の身に起こったことは熱
中症ではありませんでした。

 しかし、いかんせんまだただの高校生だった筆者は、目の前で苦しむ先生を見て
いても、為す術なくうろたえるばかり。

 ところがその時、先生の様子をじっと観察していた母が、不意に口を開きました。
 「先生、それはきっと尿管結石ではありませんかしら?」
 「尿管結石…?」
 「はい。尿管結石の痛みは、まさにこういう身の置き所がない感じであると、以
前主人が申しておりました」

 ちなみに、筆者の父は外科医でしたが、母は完全な専業主婦で、特に医学教育を
受けた経験はありません。
 母は先生に近所の救急病院をすぐに受診するようお勧めし、その日、我々は急い
で塾を退去しました。

 それから数日後。
 いつものように英語の講義を受けるため、筆者が仲間とともにその塾を訪れると、
先日とはうって変わり、満面の笑みをたたえた先生が我々のことを教室に迎え入れ
たのち、開口一番こう仰ったのです。

 「いやあ、小澁君!お母様に是非よろしくお伝えください。お母様は最高の名医
だと!」
 なんと、母の診断(?)は当たっていたのです。
 あの夜、あれからすぐに近所の救急病院を受診して検査を受けた先生は、「本物
の」医師から尿管結石と診断され、点滴を受けて結石が排出された瞬間、嘘のよう
に痛みが消えたことを、感謝の言葉とともに嬉々として筆者に話してくださいまし
た。

 筆者が母に畏敬の念を持つようになったのは、この時以降のことです。

 次回は、その尿管結石および腎結石の詳しいお話をいたしましょう。



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