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■ 第134回 健康診断を活かす ■
〜熊本地震とエコノミー症候群〜

医師 小澁 陽司
     

 東日本大震災から5年。
 この春、我が国を再び激震が襲いました。

 2016年4月14日の夜から突然始まった、熊本県を中心とする一連の大きな
地震は、本稿の執筆時点である4月下旬に至ってもなお度重なる余震が続いており、
熊本および大分の被災地の皆様は不安な日々をお過ごしのことと思います。

 この地震でお亡くなりになられた方々に対し、心からご冥福をお祈りするととも
に、被災されながらも明日の復興を目指して懸命に生き抜いていこうとする皆様へ、
誠心誠意を込めた応援のエールをお送りせずにはいられません。

 そして、極めて私的なことながら、筆者は以前、「熊本城復元整備事業」に参加
させて頂いた経験があり、熊本とのご縁を少なからず感じている者の一人です。

 医療関係者として、また一個人として、復興に際し出来る限りのご協力を惜しま
ない所存ですので、今後の被災地の動向を微力ながらも筆者なりに注視して参りた
いと思います。

 しかし、私ども関東圏に暮らす人間のほとんどは、現地の被害状況をテレビやイ
ンターネットなどを通じてしか知り得ません。

 例えば筆者は、今回の地震によって亡くなった方の多くが、古い家屋の倒壊の犠
牲になったという傷ましい報道をまず目にいたしました。そのような壊滅的な被害
を与える大きな地震が徐々に収まり、警察や消防、自衛隊などの救助活動が進むに
つれ、その後のニュースで注目されるようになったのは、車の中での避難生活を強
いられている方々の中で、「エコノミークラス症候群」により亡くなった方がいらっ
しゃるということでした。

 エコノミークラス症候群(『エコノミー症候群』とも表記)自体は、すでに皆様
の耳に馴染んでいる有名な疾患だと思います。

 元々、飛行機を利用した長時間移動の際、狭いエコノミークラスの座席に同じ姿
勢でじっと座っている間に足の血流が悪くなり、膝の裏側の静脈血が淀むことによっ
て血液の塊である血栓が作られた結果、飛行機を降りて歩き始めた途端にその血栓
が血流に乗って肺に飛び、肺の動脈に詰まって突然死を起こすために付けられた病
名ではありますが、エコノミーよりも広いファーストクラスの乗客に発症すること
も知られており、要するに長時間同じ姿勢のままでいることと、水分不足で脱水状
態になることが原因と考えられています。

 それはそのまま、今回の地震によって車中生活を余儀なくされ、車を降りた途端
に倒れて亡くなられた方の病態と不幸にも一致していたのです。

 このような症例は、やはり車中での避難生活を送られた方が多かった2004年
の新潟県中越地震でも頻発しており、今後、同じような条件下での悲劇は避けなけ
ればなりません。

 エコノミークラス症候群の予防には、長時間の同じ姿勢を避けること、時々足を
動かして血栓が出来ないようにすること、そして脱水を避けることが必要です。

 車の中で避難生活を送られていらっしゃる方は、上記のことに充分ご注意の上、
どうぞご自愛ください。

 「天災は忘れた頃にやって来る」という有名な警句は、物理学者であり、また
夏目漱石門下の文学者としても高名だった寺田寅彦博士の言葉が基になっているの
ですが、東日本大震災によって東北地方や関東地方の被災地の皆様が塗炭の苦しみ
を味わったのは、わずか5年前のこと。

 その際の生々しい教訓が今回の熊本地震で充分に生かされて、被害に遭われた地
域が一日も早い復興を遂げられ、難を逃れた皆様に笑顔が戻ることを心よりご祈念
申し上げております。


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