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■ 第133回 健康診断を活かす ■
〜ジカ熱というダークホース〜

医師 小澁 陽司
     

 2014年の夏、我が国で約70年ぶりにデング熱の患者さんが発生したことを
受け、同年10月の当コラム(第115回)では、「蚊が媒介する病気とは?」と
いうタイトルのもと、人間が蚊に刺されることによって感染するウイルス性疾患や
寄生虫疾患についてのご説明をいたしました。

 それらの感染症は現在、主として熱帯や亜熱帯地域の国々で流行していますが、
地球温暖化などにより我が国の亜熱帯化が進行した場合、将来的には日本国内での
大流行もあり得るという見解を示したことをご記憶されている方もいらっしゃるで
しょう。

 あのデング熱騒動から約1年半が経過しましたが、その間、日本国内において蚊
が媒介する輸入感染症の大規模な流行は一度も発生しておらず、筆者などはその平
和な状況に若干油断をしておりました。

 しかし、昨年末から2016年3月現在までの数カ月間というもの、冬の主役で
あるインフルエンザの蔓延を横目に、いわば無名の蚊媒介輸入感染症が我が国をこ
こまで騒がせることになるとは、恥ずかしながら予想もしていなかったのです。
 そのダークホースとは、ジカウイルス感染症、通称「ジカ熱」。
 皆様もすでによくご存知の病名だと思いますが、改めて詳しくご説明いたしましょ
う。

 ジカ熱の原因となる病原体はジカウイルスといい、このウイルスを持っている蚊
が人間を刺すことによって感染が成立します。

 ジカウイルスを媒介するのは、例のデング熱の原因ウイルス(デングウイルス)
を運ぶのと同じ、ネッタイシマカとヒトスジシマカという二種類の蚊ですが、ここ
で重要なことにお気付きではありませんか?

 そう、2014年にデング熱が日本で流行したのは、ヒトスジシマカが日本に生
息しているからであり、つまりジカウイルスを運ぶことのできる蚊が日本にも存在
するのだという事実です。

 これは、海外の流行地帯でジカウイルスに感染した患者さんが日本国内で見つか
るというだけに留まらず、今後ジカ熱が国内に定着し、定期的に流行する恐れもあ
るということを意味します。

 とはいえ、ジカ熱の症状自体は軽く、微熱や発疹、関節痛といった程度(デング
熱よりも症状が軽い!)であるため、ご自分が感染し発症していても気付かないう
ちに治癒してしまうケースがほとんどなのです。

 そもそも、感染した方の80%に症状が出ないような疾患であるにもかかわらず、
なぜここまでジカ熱が問題視されるようになったのでしょうか。

 それは、ジカ熱にはいくつかの怖い側面があるからです。

 まず、妊娠中の女性がジカウイルスに感染すると、胎児が小頭症になる可能性が
あるということ。

 流行地域であるブラジルを中心とした中南米では、ジカウイルスに感染した妊婦
から小頭症児が多数出産されており、現在その関連性が大規模に調査されています。

 また、ジカ熱の患者さんが増加すると、急性末梢神経障害であるギラン・バレー
症候群の患者数も増加するという報告もあり、こちらもやはりジカウイルス感染と
の関連性が疑われているのです。

 今のところジカウイルスに有効なワクチンはなく、特別な治療法もないため、
「蚊に刺されない」ということだけが唯一無二の予防法といえるでしょう。

 さらに最近では、性交渉によってもウイルス感染を起こす可能性が指摘されてお
り、妊娠希望の方は充分に注意しなければなりません。

 あと少しで春が過ぎ、いよいよ夏になると蚊が活躍し始める季節です。

 ジカ熱、デング熱といった蚊が媒介する輸入感染症から身を守るためには、蚊が
発生する期間における皆様お一人お一人の正しい知識と、的確な行動が必要である
と考えます。

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