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■ 第132回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その92〜

医師 小澁 陽司
     

A腎血管筋脂肪腫
 人体に発生する疾患には、実に奇妙な名前の付いたものがあり、筆者も医学部の
学生の時、それらを記憶するのに苦労いたしました。
 一度読んだり聞いたりしただけでは簡単に名前を憶えられない疾患も多く、特に
発見者の名字(しかも、外国人が3人で共同発見しているケースなど!)が冠され
ている長い疾患名の場合には、勉強しながら途方に暮れてしまいます。
 今回ご説明する疾患名は、「腎血管筋脂肪腫(じんけっかんきんしぼうしゅ)」
といい、すべて漢字ですからまだ救いがあるとは言え、今でも時々筆者の頭の中で
漢字の並び順がこんがらがってしまうという、なかなかの強敵です。

 この腎血管筋脂肪腫は、腎臓に発生する良性腫瘍の代表的なもので、読んで字の
如く「血管」と「筋肉」と「脂肪」を主な構成要素としている腫瘍であることから、
そのように命名されました。
 発生原因は不明ですが、全体の約80%が腎臓内のみの病変として単発的に発生し、
多くは健康診断や人間ドックにおけるスクリーニングの腹部エコー検査で偶然見つ
かります。そうやって発見された小さな無症状の腎血管筋脂肪腫は、基本的に治療
の必要がなく、経過観察だけで特に問題ありません。ただし、腫瘍の大きさが4cmを
超えている場合には、自覚症状として腹痛や血尿などが出現することもあり、さら
に、きわめて稀とはいえ悪性化する症例もあることから、将来的に治療が必要な状
態となるケースも想定して、腎血管筋脂肪腫が見つかった方にはその大きさを問わ
ず、出来る限り定期的に腹部エコー検査をお受け頂きたいと考えています。

 さて、腎血管筋脂肪腫は腎臓内のみの単発病変が約80%と述べましたが、一方、
残りの約20%はどういう病的意義を持つのでしょうか。
 実はこの約20%に該当する方々こそ、「結節性硬化症」という難病の合併症とし
て腎血管筋脂肪腫を発症し、積極的な検査や治療が必要となる患者さんなのです。
結節性硬化症とは、人口約1万5千人に1人の割合で発生する遺伝性疾患で、脳、皮
膚、肺、腎臓などに良性腫瘍が形成されるため多彩な症状を引き起し、例えば脳病
変として脳腫瘍やてんかん、精神遅滞などを認め、皮膚病変では顔面の血管線維腫、
肺病変としては肺リンパ脈管筋腫症があり、そして腎臓には腎血管筋脂肪腫が発生
することで知られています。
 結節性硬化症の患者さんのおよそ80%に腎血管筋脂肪腫は合併し、また、腎細胞
がんなど他の腎疾患も合併することがあるため、結節性硬化症との診断が付いた方
には腹部エコー検査の定期的なチェックが必須となるのは当然なのですが、さらに
重要なこととして、結節性硬化症に合併した腎血管筋脂肪腫は、腫瘍の大きさが4cm
を超えると急に増大しやすくなると言われており、巨大化してそのまま自然に破裂
してしまうという危険性を孕んでいるのです。
 腫瘍の自然破裂は出血を伴い、それと同時に出血性ショックを起こして死亡に至
る場合もあるため、より厳重な腫瘍のサイズのモニタリングを行うとともに、破裂
する前に治療を開始する時期を見誤らないようにすることが大切だといえるでしょ
う。

 現在、腎血管筋脂肪腫の治療としては、腫瘍を栄養している腎臓の血管に栓を詰
めて腫瘍を小さくしたり、腎臓から腫瘍を切り取る外科的手術が行われていますが、
2012年からは、結節性硬化症に合併した腎血管筋脂肪腫に限り、新しい薬物療法が
認められるようになりました。
 これは、難病と闘っている患者さんへの福音として、大いに歓迎すべきことだと
思います。医学の進歩が1人でも多くの方を幸せに出来るというのは、なんと素晴ら
しいことでしょうか。


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