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■ 第127回 健康診断を活かす ■
〜ストレスチェック制度について@〜

医師 小澁 陽司
     
 かつて我が国には、単純勁烈にみんなで頂点を目指し、誰もが一丸となってが
むしゃらに働いていた時代がありました。

 昭和30〜40年代の高度経済成長期のことです。

 運命共同体という言葉の通り、その時期に働いていた方々は濃密な集団的人間
関係を基盤にして、戦後の日本経済の復興を支えました。それから50年近くが
経った21世紀の今、日本の社会は驚くほど複雑かつ多様化し、職場や日常生活
において、高度経済成長期とは比較にならないほど、個人の主張や立場が尊重さ
れるようになってきています。

 しかし、そんな社会構造の変化は、私たちの生活を自由で便利なものにしてく
れた一方、生きていく上で直面する個人的なプレッシャーを増加させる結果をも
たらし、新たな弊害を生み出すことにもなりました。

 それが「ストレス」の問題です。

 人間は過度のプレッシャーを克服しようとすると、ストレスが発生して心身に
重くのしかかってきます。集団での行動や緊密な人間関係に慣れていない方の場
合、会社の上司のちょっとした叱責や、取引先の相手からのクレームなどが大き
なストレスになることは容易に想像がつくでしょう。

 こういった個人的なストレスの増大は、やがて重大な社会問題へと急発展して
いきました。すなわち、職場の内外で多様なストレスに曝される機会が増えたこ
とにより、仕事の継続に支障が生じるようになった方が続出しはじめたのです。

 近年、ストレスによる精神的および肉体的な変調から、働き盛りの年齢で会社
を休職せざるを得ない方が増加しているという事実を把握した厚生労働省は、事
業者が労働者のストレス度のチェックを行うことを義務化する制度を定め、平成
27年12月1日からそれを開始すると発表しました。

 要するに、働く方々のストレス問題の解決に向けて、いよいよ我が国が総力を
あげて立ち上がったことになります。

 今号と次号は、腹部エコー検査所見の解説を一旦お休みし、現在急ピッチで準
備が進められているこの「ストレスチェック制度」にフォーカスを当て、どうい
う内容であるかをご説明してまいりましょう。

 まずは、ストレスの定義から。

 1936年、ハンス・セリエ博士というハンガリー系カナダ人の生理学者が、
「ストレス学説」を提唱しました。ストレスという言葉は、元々「歪み」という
意味の物理学用語で、物体が外側から加えられた圧力によって歪んでしまうこと
を意味します。一番わかりやすい例えは、ゴムボールや風船を手で押すと形が変
わり、歪んでしまうという現象でしょう。セリエ博士は、その現象が人間の心身
にも当てはまることを喝破し、ストレスを「外部からの刺激によって生じる歪み
に対する、生体の様々な反応」と定義して、さらにストレスを引き起こす外部か
らの刺激を、物理的や心理的な要因に分類しました。そのうちのひとつである、
心理的な刺激によって起こる生体反応のことを、80年の時を経た現在、私たち
はいわゆる「ストレス」と呼んで、きわめて身近なものとして認識しているわけ
です。

 この、現代社会に広く蔓延するストレスに対し、要因自体を低減させて労働者
のメンタルヘルスの悪化を未然に防ぐことが、本年12月から導入されるストレ
スチェック制度の主目的となります。


 続きは次号をお待ちください。


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