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■ 第125回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その87〜

医師 小澁 陽司
     
C肝嚢胞:嚢胞(のうほう)という医学用語をご存知でしょうか?

 実は平成24年8月号の当コラムで、肺にできる嚢胞についてすでに解説を
しておりますが、今号の表題である肝臓の嚢胞とはやや趣が異なる所見ですの
で、その語源なども含め、今回は改めて肝嚢胞につき詳しくお話ししたいと思
います。

 「嚢」とは、袋のことです。荷物を背負うために使うリュックサックを、
日本語では背嚢と表現しますし、風邪を引いて熱を出した時、氷を入れて額を
冷やす袋を氷嚢と呼ぶことからも、嚢という漢字の持つイメージが容易に想像
できるでしょう。

 また、「胞」という漢字を辞書で調べてみると、胎児を包む膜、母の胎内と
いった意味に続いて、「膜に包まれた生物体の組織」とあります。
 つまり、この二つの漢字の組み合わせである嚢胞という所見は、「膜に包ま
れた袋状の構造物」を意味しており、肝嚢胞も肺嚢胞も基本的に同じ定義とな
りますが、両者の決定的な違いはその予後についての評価です。

 肺にできる嚢胞の中身は空気であり、しかもその壁が薄いため、何かの拍子
に嚢胞が破裂したとたん、肺がぺしゃんこになって呼吸困難を起こす危険性
(『気胸』という状態)を孕んでいます。一方、肝臓にできる嚢胞の内容物は
主にさらりとした液体で、その上それを包む袋が硬いため、滅多なことでは破
れません。もちろん例外はありますが、肝嚢胞は多くが無症状のまま経過し、
将来的に悪性化することもまずありませんから、いわば人畜無害な存在と言っ
てよいでしょう。
 このため、健診や人間ドックで各種の嚢胞を指摘されたとしても、肺嚢胞の
場合は「症状がある時は必ず医療機関をご受診ください」という判定となるこ
とが多いのに対し、肝嚢胞の場合はほとんどが「放置可能」という評価になる
のです。

 このように静かな存在ですから、先日ご説明した肝血管腫と同様、肝嚢胞も
健診などの腹部エコー検査で偶然見つかることが多く、健診受診者の約10%
に認められるという統計から考えると、意外なほど身近にある所見だといえる
かもしれません。
 その腹部エコー検査では、肝臓内に「無エコー」と呼ばれる真っ黒な円形の
領域が見え、そこの周囲をつるりとした均一な厚さの壁が取り囲んでいるのを
確認すれば、比較的容易に診断が可能です。また、肝嚢胞が出来る数や大きさ
には個人差があり、1個しかできない方から多発している方、あるいは小さな
ものから巨大なものまで様々ですが、どんな状態であれ、先述したように問題
のない症例がほとんどですので、むやみに心配することはありません。ただし、
嚢胞が多発していて葡萄の房のように見える「多房性」の場合は、悪性腫瘍と
の鑑別が必要であったり、あまりにも多発している症例や巨大化したため腹腔
内の圧迫症状が認められるケースでは、精密検査や治療が必要となるでしょう。

 肝嚢胞が発生する原因は不明であり、先天性のものが大多数を占めています
が、後天的に発生する場合があることも記しておかなくてはなりません。その
中で最も有名なのが、エキノコックスという寄生虫の感染によって起こる「エ
キノコックス症」です。我が国では主として北海道で認められるもので、野生
のキツネなどの動物が保有している寄生虫が人間に感染し、肝臓に住み着いて
嚢胞性病変を形成することを特徴としていますが、長期間の感染を経ると重度
の肝機能障害を引き起こしたり、嚢胞が腫瘍によく似た所見を呈し手術適応と
なることもあるため、早期発見と早期治療が必要な怖い疾患として知られてい
ます。


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