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■ 第120回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その82〜

医師 小澁 陽司
     
 今回から、超音波検査についての解説を開始します。平成20年に当コラムで一度
ご説明した、この検査法の基礎的事項の復習からはじめましょう。

 まず、超音波とは一体何でしょうか。
 一般的に、人間が耳で聞くことの出来る音域よりも高い周波数の音(『音波』と『音』
は同じ意味)を超音波と呼びます。つまり、人間にとって超音波は、「聞くことが出来な
い音」になるわけです。

 イルカやコウモリといった動物は、同じ哺乳類であるにもかかわらず、人間と違って超
音波を出すということが知られています。それらの動物は暗闇の中、自分の進む先に何か
障害物があるのかどうかを超音波で察知するという離れ業をいとも簡単にやってのけてい
るのですが、これが現在利用されている超音波検査の原理とほとんど同じであるというと、
皆様は驚かれるかもしれません。

 ここからは、簡単な物理学のお話です。「音」というものは何か物体にぶつかると反射
したり、そのまま物体の中に吸収されたりする性質を持っています。音が反射して元の場
所に戻ってくることを実体験できるのが、登山をした際に「ヤッホー」と叫んだあと聞こ
えるやまびこやこだまであり、こういった現象を「反響」といいます。この反響の特性を
利用して、20世紀の半ば頃にある医学的なアイデアが生まれました。それは、機械で発
生させた超音波を体の表面から内部に向けて発射し、臓器にぶつかって反響した音波を元
の場所で受け止めて画像化すれば、簡便に体内の臓器の形が分かるのではないか、という
画期的な考えです。反響という言葉は、英語で言うとエコー(echo)。そう、のちに超音
波検査がエコー検査と呼ばれるようになったのは、このためなのです。

 超音波検査開発の原点となった出来事が、1912年に氷山と衝突して沈没した豪華客
船タイタニック号の悲劇であることは以前ご説明いたしました。闇夜の航行中、目視でき
ない氷山を探すために超音波を利用して発明された氷山探知機の原理は、やがて1914
年にはじまった第一次世界大戦において、敵の潜水艦を発見する装置(ソナー)に応用さ
れていきます。その頃から、医学界でも超音波を医療に用いることが出来ないかと試行錯
誤は続けられていましたが、なかなか実用化には至りませんでした。そして第二次世界大
戦が終わり、漁船の魚群探知機が発明されたことをヒントにして、ついに現在へと続く医
療用の超音波検査法の本格的な開発がはじまったのです。

 現在のエコー検査の長所は、まず簡便に検査が行えるということが挙げられます。そし
て、対象臓器をリアルタイムに観察することが出来る上、検査をお受けになる方に大きな
肉体的な苦痛を与えず、またレントゲン線を使用しないため、何回検査を行っても体への
影響がないというのも大きな特徴でしょう。

 このように、エコー検査は利点が多い検査法ですが、残念ながら万能ではありません。
例えば、超音波は気体の中を伝わりにくい性質があるため、肝臓や腎臓と違って空気を多
く含む肺などの臓器の観察には不向きなのです。また、以前もご説明したように、骨は硬
すぎて超音波が通過しないため、しっかりと骨に守られた臓器(脳など)も観察すること
ができません。さらに、検査を行う技術者のスキルによって診断精度に差が出たり、検査
をお受けになる方の体格(皮下脂肪が多いなど)によっては正確に観察できない場合もあ
るのです。

 それでは次回からいよいよ、エコー検査で分かる所見を臓器別に解説してまいります。


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