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■ 第116回 健康診断を活かす ■
〜エボラ出血熱、日本での今後は?〜

医師 小澁 陽司
     
 前回の本コラムでは、蚊が媒介する輸入感染症についてのお話をいたしました。
その後、蚊が姿を消した秋口になってデング熱騒動が終息し、それと前後してクロー
ズアップされはじめた感染症が、今話題の「エボラ出血熱」です。

 本稿執筆時点の2014年10月下旬において、エボラ出血熱の日本国内での発症
例はまだありませんが、微生物感染症という病気の恐ろしさは、検疫などの幾重にも
張られた網の目をかいくぐり、いつしか私たちの身辺まで静かに侵入してくるところ
にあります。

 とりわけ今回のエボラ出血熱の尋常ならざる点は、決定的な治療薬やワクチンが未
だ開発されておらず、しかも発症後の致死率が極めて高いということであり、感染が
流行している地域では「死のウイルス」と呼ばれ、畏怖されているのも当然だといえ
ましょう。

 この病名は、1976年に中部アフリカの国、コンゴ(以前のザイール)のエボラ
川流域の村で最初の患者が確認されたことに由来しています。病原体はエボラウイル
スで、感染すると2日から3週間程度の潜伏期間を経たのち、突然発症する高熱、頭
痛、咽頭痛、筋肉痛などの感冒様症状に続き、嘔吐や下痢、肝腎機能障害といった多
彩な所見の出現を認めますが、症状の中で最も凄惨な様相を呈するのが出血傾向(吐
血および下血のほか、口腔内や目の粘膜、鼻腔や消化管などに出血が起こります)で
あることから、エボラ出血熱と呼ばれるようになりました。しかし、この出血症状は
感染者全員に出現するわけではないため、最近は「エボラウイルス病」という名称が
世界的に使われはじめています。

 問題となっている致死率は、過去にアフリカで大流行(アウトブレイク)した地域
やエボラウイルスの遺伝子型によって違いはありますが、おおよそ50%から90%
と非常に高く、現在、西アフリカ諸国で起こっている流行の最新調査でも、感染者全
体の約50%の方が亡くなっていることが判明しており、WHO(世界保健機関)が
この8月に緊急事態宣言を発表するなど、予断を許さない状況が続いているのです。

 一方、我が国は依然として鷹揚とした状態にありますが、実際、アメリカなどの先
進国でも感染者が発生していることを考えると、この事態を対岸の火事として傍観し
ているのは危険なことと言ってもいいでしょう。果たして今後、エボラウイルスは海
を越えて日本国内に侵入し、大流行する可能性はあるのでしょうか?

 結論から言うと、今のところ日本においてエボラ出血熱が大流行を起こす可能性は
かなり低いと考えられています。

 なぜなら、エボラウイルスはインフルエンザウイルスのように空気感染をせず、感
染した人の血液や体液などに触れることによって人間から人間へ直接感染するため、
よほど濃厚な接触をしない限り簡単には感染しないということや、流行している地域
と我が国の生活環境や習慣、医療機関の整備状況などを比較すると、感染が容易に拡
大する要素は少ないと思われるからなのです。

 ただし、日本国内でも単発的に感染者が出現する可能性は充分にあるため、今後は
「静かに忍び寄る隣人」であるエボラウイルスがもたらす症状を充分理解して注意を
し、同時に、日頃からうがいや手洗いなどの一般的なウイルス対策を行って感染予防
に努めることが大切です。

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