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■ 第115回 健康診断を活かす ■
〜蚊が媒介する病気とは?〜

医師 小澁 陽司
     
 今年の8月、日本国内で蚊に刺されてデング熱に感染した症例が、約70年ぶりに
報告されました。その後も感染者数の増加が止まらず、東京在住の方はこの未曾有の
事態に震撼されたことでしょう。しかし実のところ、海外の流行地域でデング熱に感
染した旅行者が日本に帰国したあと発症する症例(これを『輸入感染症』と呼びます)
は昔から意外と多く、毎年、想像以上に多数の輸入デング熱患者が国内で確認されて
いるのです。特に、2010年以降の患者発生数は概ね年間200人を超えており、
それは輸入感染症が今や私たちにとって遥か遠くの存在ではないことを如実に示して
いるといえます。

 周知のとおり、デング熱を人間に感染させるのは蚊です。デングウイルスを持った
蚊が、血を吸う目的で人間を刺すことにより感染を起こすわけですが、このようにウ
イルスや細菌などの病原体を運んでくる動物は「媒介(ばいかい)動物」と呼ばれて
います。このたびデング熱がクローズアップされたことで、病気を媒介する蚊の怖さ
が日本中にあまねく知れ渡った感はありますが、蚊が関与してなおかつ日本国内で発
症する可能性のある感染症は、実はこれ以外にもいくつか存在します。しかも、主に
熱帯・亜熱帯地域で流行しているこれらの疾患は、地球温暖化などの諸要因により我
が国の熱帯化が進行しつつある現在、いずれ日本国内でも流行しはじめる可能性があ
るのです。
 今回は、これらの「蚊媒介感染症」を列挙し、それぞれ簡単に説明を加えてみたい
と思います。

 @デング熱:本来は東南アジア、中南米、カリブ海の国々で流行している感染症で、
  病原体はデングウイルス。媒介する蚊はネッタイシマカとヒトスジシマカです。
  特有の治療薬や予防のためのワクチンはなく、感染すると高熱や頭痛、目の奥の
  痛み、筋肉痛や発疹などが起こりますが、基本的に予後良好で、人から人に感染
  することもありません。ただし、まれに「デング出血熱」を引き起こして重症化
  することがあり、対応が遅れると死に至るケースもあるので注意が必要です。

 A日本脳炎:名前のとおり、主に日本、中国、東南アジアで発生するウイルス性疾
  患です。これも人から人への直接感染はなく、日本脳炎ウイルスを保有する豚や
  牛などの血を吸ったコガタアカイエカが、そのあと人を刺すことで感染が起こり
  ます。我が国では予防接種が積極的に行われていますが、有効な治療薬はまだ発
  明されていません。症状として高熱、頭痛、嘔吐などの脳炎症状が起こり、進行
  すると麻痺や意識障害に至る場合もあります。しかし、このウイルスに感染して
  も発病する確率は低く、多くは何事もなく経過することが知られています。

 Bマラリア:どんな感染症なのか分からなくても、名前だけは有名なのがこのマラ
  リアでしょう。第二次世界大戦前の日本には存在しましたが今は絶滅し、東南ア
  ジアやアフリカ、中南米が現在の流行地帯となっています。マラリアという感染
  症の意外な点は、病原体が細菌やウイルスではなく、マラリア原虫、つまり寄生
  虫の一種であるということ。ハマダラカという蚊がこの原虫を媒介し、人に感染
  すると高熱、頭痛、嘔吐、貧血などの症状が認められ、特に高熱は繰り返し出現
  するため、その特徴によって三日熱マラリア、四日熱マラリア、熱帯熱マラリア
  などと分類されています。治療としては抗マラリア薬の投与が行われますが、早
  期発見および早期治療が必要な、怖い感染症のひとつです。

 Cウエストナイル熱:アフリカやアジアのみならず、ヨーロッパやアメリカにも分
  布するウイルス性の熱性疾患で、カラスなどの鳥類から蚊を介して人に感染しま
  す。日本国内には存在しません。

 Dチクングニア熱:チクングニアウイルス感染によって起こり、高熱、関節痛、発
  疹が特徴です。アフリカ、東南アジアなどに存在し、現在の日本では認められま
  せんが、我が国にも生息するヒトスジシマカが媒介するため、将来的に流行する
  可能性も憂慮されています。

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