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■ 第114回 健康診断を活かす ■
~夏の職場の注意点②~

医師 小澁 陽司
     
 統計学的に見ると、我が国の平均気温はこの100年間で約1.1℃も上昇してい
るそうです。これは、世界各国の気温上昇率と比較しても高めなのですが、とりわけ
1990年代に入ってからその傾向が顕著に表れています。確かにこの数年、夏にな
ると日本各地で最高気温の記録を塗り替える報道が相次ぎ、あまりの猛暑にうんざり
されている方も多いでしょう。しかし、うんざりだけならまだしも、実際に健康被害
が出現するとなると話は別です。
 その筆頭が、前回の当コラムで実際の症例を挙げてご紹介した「熱中症」であるこ
とに、誰もが異論はないと思います。
 暦の上では秋となる9月に入っても、なお暑い日々が続く昨今の日本では、真夏と
同様、まだまだ熱中症に注意が必要であることに変わりはありません。そこで今回は、
 今年の夏も頻発した本症の実態を復習し、今後の備えとする目的で、熱中症の基礎
的事項をご説明しましょう。

 人間は、様々な温度環境において、体温が一定に保たれるような機能を有していま
すが、屋外・屋内を問わず、あまりに外気温が高すぎたり湿気がひどい状況で長時間
の作業を続けていると、その調節機能が効かなくなり、体内にどんどん熱がこもる結
果、熱中症となってしまいます。
 熱中症はその重症度によってⅠ度からⅢ度の三段階に分類されていますので、それ
らを症状や治療法と共にまとめてみましょう。

Ⅰ度:この段階はまだ軽症で、「熱失神」や「熱けいれん」という状態に相当します。
こもった熱を体から放散させようと、皮膚にある血管が拡がるため、血圧が低下して
脳血流量が減ってしまうことで立ちくらみやめまい、一時的な意識消失などを起こす
のが熱失神。また、大量の発汗によって体から塩分やミネラル分が失われているにも
かかわらず、塩分を含まない水分だけを補給していることにより血液が薄まって、痛
みを伴った筋肉のけいれん(主に手足)が起こってしまうことを熱けいれんと呼びま
す。これらは、体の冷却と塩分などを含んだ飲み物を摂ることで改善するケースがほ
とんどです。

Ⅱ度:別名を「熱疲労」といい、重症度としては中等症になります。これも大量に発
汗することが原因であり、高度な脱水状態を起こすために脳血流量が低下して、強い
めまいや頭痛、全身倦怠感、吐き気・嘔吐などを引き起こしますが、前回、実例とし
て挙げた患者さんはこの熱疲労の段階であったと考えられ、当院にて体を冷やしなが
ら輸液(点滴)を行ったところ、速やかに症状が改善し無事にご帰宅されました。つ
まり、この段階以降は医療機関への受診が必須であるということになります。

Ⅲ度:この状態が、重症である「熱射病」です。体温が高くなりすぎて(40℃以上)
脳機能に障害が起き、体温調節が困難になった結果、意識障害やショック状態に至る
もので、生命の危険を伴います。この場合、入院可能な病院への搬送と、一秒でも早
い意識回復のための処置が必要となりますので、疑わしい方がいたら躊躇せずに救急
車を要請してください。

 最後になりますが、熱中症を防ぐためには、その時のご自分の体調や服装などにも
留意する必要があることを申し添えます。
 下痢をしていて脱水状態にある方、糖尿病や心疾患、腎疾患などの持病がある方、
厚地の作業着を着用しなくてはいけない方(肥満している方も同じような意味になり
ます)などは、高温多湿の環境下における作業をされる際、特にご注意ください。
 また、ご高齢者や乳幼児なども熱中症の標的になりやすいため、ご家族や周りの方
々の充分な配慮が必要でしょう。

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