先月の当コラムでは、チャーグ・ストラウス症候群(現在の正式名称は「好酸球性
多発血管炎性肉芽腫症」)という難病についてのお話をいたしました。
今回は、この「難病」と呼ばれる疾病全般につき、もう少し掘り下げてご説明する
ことにいたしましょう。
まず基礎的なこととして、難病とは一体どういう疾病を指すのかを理解しないとい
けません。
前回も記したとおり、難病というと漠然としたイメージで捉えられがちになります
が、それもその筈で、難病とは明快な医学的定義が冠された疾病の名前ではなく、そ
の時代その時代に出現する「不治の病」を、一般社会においてそう呼んできたという
歴史があるのです。
例を挙げるならば、結核や梅毒といった感染症を完治させることが出来ない時代に、
それらは難病と呼ばれ恐れられていました。ところが、治療法と予防法が確立した今、
すでに誰も難病とは呼びません。
つまり難病は、医学の発達と共に変遷し、その時々で病気の種類や数が変化してき
たということになります。
我が国で難病への関心が高まってきた昭和47年(1972年)、当時の厚生省は
難病の概念を次のように定義付けし、その対策に乗り出しました。
①原因不明、治療方法が未確立であり、かつ、後遺症を残す恐れの少なくない疾病。
②経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要する
ために家庭の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病。
この2項目を定めた「難病対策要綱」によって、調査・研究の推進、医療施設の整
備、医療費の自己負担の解消などが難病対策の基本とされ、その内容は時を経るに従
い、だんだんと整備されていきました。同時に、最初は8つしかなかった難病の対象
疾患も徐々に増え、2014年現在、厚生労働省の行っている難治性疾患克服研究事
業の対象疾患は全部で130種類に上っています。
今回、それらのすべてを列記するだけのスペースはありませんが、その中で皆様も
ご存知だと思われる疾患を5つだけ挙げてみましょう。
・重症筋無力症(自己免疫性疾患の一種で、筋力が低下したり筋肉が疲労しやすく
なる病気)
・パーキンソン病(安静時の手足の震え、筋肉のこわばり、動作の緩慢化などが起
こる神経変性疾患)
・メニエール病(内耳の内リンパ水腫によって起こる回転性のめまい、耳鳴り、難
聴、耳の閉塞感が特徴)
・潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜に慢性炎症が起こり、潰瘍やびらんが出来るため、血
便や下痢、腹痛などを繰り返す病気)
・慢性膵炎(何度も繰り返す炎症のため膵臓の細胞が破壊され、膵臓全体が硬く萎
縮していく状態)
また、この130種類の疾患のうち、56疾患については、各都道府県が実施する
「特定疾患治療研究事業」によって医療費の公費負担が行われており、治療が受けや
すくなっていることは特筆すべきでしょう(上に示した5つの疾患の中では、重症筋
無力症、パーキンソン病、潰瘍性大腸炎がその対象)。
本稿が難病と闘う方々への一般的な理解を少しでも深めることのお役に立てるのな
らば、それは筆者にとって望外の幸せです。
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