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■ 第93回 健康診断を活かす ■
~長引く咳について②~

医師 小澁 陽司
     
 「長引く咳」の原因となる呼吸器感染症について、引き続き解説します。

今回は、百日咳についてのお話をいたしましょう。まずは、以前より解説
されている百日咳の一般的なお話から。

昔から百日咳は、乳幼児の罹患率が圧倒的に高いことで知られる呼吸器感
染症でした。このため、子供のそばにいる大人がその症状を注意深く観察
してあげなければいけない疾患ということになります。
 百日咳を発症した当初は、くしゃみ、鼻水程度の症状しかないため、「
普通のかぜを引いた」と思われる方がほとんどでしょう。それくらい、百
日咳はごく当たり前に忍び寄ってきます。しかし、普通の感冒と決定的に
違うのはそこから先で、初期症状の出現から2週間ほどして徐々に咳が強
くなり、やがて発作のような激しい咳を繰り返すようになります。
 百日咳に特徴的なのは、その咳発作の現れ方です。しばらく激しくせき
込んでから、最後に笛を吹くような音を立てて息を吸い込んで終わる、と
いう一連の症状のあと、一旦はまったく楽になりますが、やがてまた同じ
ことが始まって、それを一晩のうちに何度も、そして何日も繰り返すので
す。
 大人でさえつらい咳発作が、まして乳幼児に起こるのですから、その際
には嘔吐や無呼吸を伴うことが多く、甚だしい場合には肋骨骨折や死亡に
至ることもあります。
 そして、こういった発作が2~3週間続くとその後は回復期に入り、段
々と咳が治まってきますが、結局、症状が完全に消失するまで2~3か月
かかることがあるため、「百日咳」という病名が付いたというわけです。
 百日咳は、百日咳菌という細菌に感染することによって起こり、マイコ
プラズマと同様、患者さんの咳などで感染します。治療もマイコプラズマ
とほぼ同じで、マクロライド系の抗生物質を使用しますが、やはり耐性菌
(従来の抗生物質が効かない菌)が問題となっています。

 ところがこの数年、百日咳を取り巻く環境は大きく変化してしまいました。

 さて、ここからは最新のお話です。
 元々は子供だけの病気というイメージのあった百日咳ですが、現在の我
が国において罹患する年齢層は、なんと小児よりも成人の割合の方が多く
なってしまったのです!
 2000年以降、徐々に増加しはじめた百日咳の成人罹患率は、201
0年に至りついに50%を突破してしまいました。つまり今現在、日本に
おける百日咳の患者さんの半分以上が、20歳を過ぎた大人ということに
なります。
この理由のひとつとして挙げられるのは、百日咳ワクチンの有効期間の問
題です。
 要するに、子供の頃に接種したワクチンによって体内に作られた免疫
(抗体)が、その有効期間を過ぎて効力を失いはじめたため、近年になっ
て大人の感染者が続出しているというわけです。
 そしてこの現象は、さらに新たな問題を惹き起こしています。それは、
大人から子供への感染が増加しているということ。
 大人が発症しても比較的軽症で済むものが、先述のように子供では重症
化してしまうため、百日咳は大人が注意をしていなければならない疾患で
あることに変わりはないのです。
            
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