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■ 第91回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その73〜

医師 小澁 陽司
     
I胸膜癒着 
 胸膜癒着は、前回のテーマである胸膜肥厚と似たような境遇にある
所見です。
当コラムの第89回でご説明したように、胸膜には、壁側胸膜と臓側
胸膜の二種類があり、その二枚の胸膜が胸膜炎や肺炎といった炎症に
よっていわば火傷をしてしまうと、局地的に密着して剥がれなくなっ
てしまうことがあります。この状態が「胸膜癒着」と呼ばれるものです。
胸膜癒着の発生機序は、二枚に重ねた薄いビニールを弱い炎で炙って
いくうち、やがて硬くなってお互いが張り付いてしまうという状況を
イメージすると解りやすいかもしれません。
そして、胸膜肥厚と同じように、胸膜癒着もまた、胸部レントゲン上
でよく見かけるわりに重大な病的意義を持たないケースが大多数を占
める所見であるため、両者は似たような境遇にあると考えていいわけ
です。
 ところが、この癒着をあえて人工的に起こさせて、治療に適用する
場合があります。それが、「胸膜癒着術」です。
胸膜癒着術は、主に肺がんなどの悪性腫瘍に罹患した患者さんに対し
て行われる保存的治療の一種で、かなり以前から施行されてきました。
肺に出来た悪性腫瘍が進行してくると、癌性胸水と呼ばれる液体が胸
腔内に貯留することがあり、専用のチューブを胸腔に挿入する方法で
それを一旦抜いても、がんが存在する限りすぐにまた大量に貯留し、
やがて肺や心臓を圧迫して呼吸困難を来してしまいます。そこで、胸
水が貯留する場所である壁側胸膜と臓側胸膜との間に薬剤を注入し、
二枚の胸膜をわざと癒着させてしまうことにより、胸水を物理的に溜
めさせない状態にするというのがこの治療法の目的なのです。
 また、悪性腫瘍に伴う胸水ばかりでなく、頻回に繰り返す気胸に対
しても胸膜癒着術は行われ、再発防止効果の実績を挙げています。
さて、胸膜癒着術の具体的な方法ですが、要するに二枚の胸膜に人工
的に胸膜炎を起こさせて密着させるわけですから、胸膜をわざと刺激
するような薬剤を胸膜腔に注入します。使用される薬は疾病の種類に
よって変わりますが、我が国では現在、ピシバニールという薬や抗が
ん剤(ブレオマイシン)、抗生物質(ミノマイシン)などを主として
使用します。また、欧米で一般的に使われているのはタルクという鉱
物の一種ですが、日本ではそれを用いた場合、保険適応がありません。
しかし、その有効性や安全性は認められているため、実質的には我が
国でも使用されています。
この胸膜癒着術のように、病的な状態を逆手にとって治療に用いると
いうのは、これぞ人間の叡智というべきものでしょう。
            
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