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■ 第64回 健康診断を活かす ■
〜知っておきたい「健康診断の基礎知識」その54〜

医師 小澁 陽司
 前回の本コラムで少しだけ触れた、萎縮性胃炎の原因として重要な「ヘリ
コバクター・ピロリ菌」について、今回は詳しくお話ししたいと思います。

 ヘリコバクター・ピロリ(以下、『ピロリ菌』と呼びます)は現在、萎縮
性胃炎(慢性胃炎)のみならず胃潰瘍や十二指腸潰瘍、そして胃がんなどの
悪性腫瘍を発生させる原因菌として知られていますが、菌の発見の歴史はま
だ浅く、その治療の必要性が重要視されるようになったのは、つい最近のこ
とでした。

 なぜならピロリ菌は、19世紀末に最初の報告がなされた後、紆余曲折を
経て1983年にオーストラリアの研究グループによって再発見されるまで、
医学の歴史から100年以上も置き捨てられていた存在だったからなのです。

 以前ご説明したように、胃の中には胃酸という強い酸が存在し、我々が食
べたものの殺菌を行ってくれるのですが、この胃酸に打ち勝って胃の中に存
在できる菌などいるわけがないという根拠のもと、ピロリ菌は長い間、医学
界から顧みられることがありませんでした。

 ところが、オーストラリアの研究グループによるこの菌の正式な発見以降、
急速に研究が進み、ピロ
リ菌が経口的に胃の中に入るとそこでウレアーゼという酵素を出し、やはり
胃の中に存在する尿素と反応しアンモニアを作り出して、その部分の胃酸を
中和させることにより、胃の中でも菌の生存が可能であるという驚異的な事
実が分かったのです。

 また、その際に産生されるアンモニアや、先述したウレアーゼ、そしてV
acAと呼ばれる毒素など、ピロリ菌自身が産生する物質によって胃の粘膜
が傷付けられ、炎症が起こることにより、萎縮性胃炎や胃・十二指腸潰瘍が
惹起されるというメカニズムも次々と明らかになっていきました。

 ピロリ菌が胃がんを発生させる機序については、ピロリ菌の長期感染によ
り萎縮性胃炎が進行するにつれ、胃粘膜において炎症の発生と改善を繰り返
した結果、その部分にがん細胞が発生してくるという考え方があり、現在も
研究が進められています。

 今なお、世界中の人々の約半数がピロリ菌を保有していると推定されてい
ますが、衛生状態のいい先進国では徐々に減少しつつあり、また我が国では
健康保険による内服治療が可能であるため、最近は皆様のピロリ除菌に対す
る関心が高まってきておられます。

 将来的な胃がんのリスクを減少させるためにも、胃の症状でお悩みの方に
は、是非一度、ピロリ菌の検査をお受けになることをお勧めいたします。

            
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